張眉怒目で幕を下ろした第1クオーター。インターバル中、中川原は何やら審判に抗議をしているようだった。
第2クオーター初っ端から、牙を剥くイエローマン。
「おらぁああ!!」
コーナーからの哲也のシュート。外れたボールをリバウンドした学武が俺にパスをくれて、それを頭上で構えた時だった。ボールを叩くふりをして、隆宗は躊躇なく俺の頭を殴りつけた。その衝撃で1メートルほど後ろへ飛んだ身体は、偶然背後にいた大林に抱きかかえられるかたちで止まった。
「おい4番!なにすんだよ!」
大林が隆宗にそう怒ってくれたから、俺は俺の怒りを封じ込めた。
「白4!プッシーング!」
だからこれはプッシングどころではないよと思うけれど、判定するのは審判だ。俺等にジャッジをする権利はない。小さく舌を打ちながら大林に預けていた身を剥がし、「サンキュ」と言った。
「修斗、平気か?」
「へーきへーき」
「あいつやべえじゃん」
その時聞こえてきたのは中川原の叫び声。
「なんだ今のは!ちゃんと見ろ!」
たぶんこれは、審判にあてての言葉だろう。
隆宗のファウルで得たフリースローを2本決めれば28対8まで点差は開いた。それに伴い開くは決勝トーナメントへの扉。そこから光が射してくる。
野蛮だけれど巧みなプレーも併せ持つ隆宗は、股の間で行き来させたボールを次にどうするかを考えている様子。足も腕も頭も彼にやられてボロボロな俺だけど、それはアドレナリンを大量に放出することで治療した。
キュッ!と覚悟の音が隆宗の足元から聞こえて、すぐさま彼のコースを塞ぐ。
「くそが!」
言の葉に乗せられたのは、思い通りにいかぬ彼のフラストレーション。とにかくシュートを放とうと半ば強引に飛んだ彼を阻みに、俺もフロアを蹴り上げた。眩しい前歯がライトで反射しキラリと瞬く。
「修斗!」
空中にいる俺へ、危険を知らせたのは哲也だった。名前しか叫ばれていないけれど、俺にはそれが「逃げろ」に聞こえた。
ガッダン!!ダンッ!ダンダン……ダンダンダン………
耳に響いた痛々しい音の数々。それは俺の背中が激しく舞台の側面に衝突してもなお、鼓膜にこびりついていた。
馬鹿でかい釘でも打ち付けるかの如く振り下ろされたボールが俺の脳をぐらりと揺らすと、まずは中川原と真那花が叫んでいた。
「花奏!」
「修斗!」
それに混ざって聞こえたのは、音色の異なる複数の声。
「花奏先輩!」
「修斗!」
この場にいない、母の声すら聞こえた気がした。
ただでさえ重力があるこの地球上で、無防備な状態から地へ叩きつけられた俺は空で絶命した鳥より落下スピードが速いだろう。尾骨に響くほど尻を打つと、身体はカーリングのストーンに化す。男たちの汗で滑ったコートは滑りがよく、俺を舞台側面へ衝突させるまで、そう時間は要さなかった。
無慈悲に転がるボールが余韻を残す。
第2クオーター初っ端から、牙を剥くイエローマン。
「おらぁああ!!」
コーナーからの哲也のシュート。外れたボールをリバウンドした学武が俺にパスをくれて、それを頭上で構えた時だった。ボールを叩くふりをして、隆宗は躊躇なく俺の頭を殴りつけた。その衝撃で1メートルほど後ろへ飛んだ身体は、偶然背後にいた大林に抱きかかえられるかたちで止まった。
「おい4番!なにすんだよ!」
大林が隆宗にそう怒ってくれたから、俺は俺の怒りを封じ込めた。
「白4!プッシーング!」
だからこれはプッシングどころではないよと思うけれど、判定するのは審判だ。俺等にジャッジをする権利はない。小さく舌を打ちながら大林に預けていた身を剥がし、「サンキュ」と言った。
「修斗、平気か?」
「へーきへーき」
「あいつやべえじゃん」
その時聞こえてきたのは中川原の叫び声。
「なんだ今のは!ちゃんと見ろ!」
たぶんこれは、審判にあてての言葉だろう。
隆宗のファウルで得たフリースローを2本決めれば28対8まで点差は開いた。それに伴い開くは決勝トーナメントへの扉。そこから光が射してくる。
野蛮だけれど巧みなプレーも併せ持つ隆宗は、股の間で行き来させたボールを次にどうするかを考えている様子。足も腕も頭も彼にやられてボロボロな俺だけど、それはアドレナリンを大量に放出することで治療した。
キュッ!と覚悟の音が隆宗の足元から聞こえて、すぐさま彼のコースを塞ぐ。
「くそが!」
言の葉に乗せられたのは、思い通りにいかぬ彼のフラストレーション。とにかくシュートを放とうと半ば強引に飛んだ彼を阻みに、俺もフロアを蹴り上げた。眩しい前歯がライトで反射しキラリと瞬く。
「修斗!」
空中にいる俺へ、危険を知らせたのは哲也だった。名前しか叫ばれていないけれど、俺にはそれが「逃げろ」に聞こえた。
ガッダン!!ダンッ!ダンダン……ダンダンダン………
耳に響いた痛々しい音の数々。それは俺の背中が激しく舞台の側面に衝突してもなお、鼓膜にこびりついていた。
馬鹿でかい釘でも打ち付けるかの如く振り下ろされたボールが俺の脳をぐらりと揺らすと、まずは中川原と真那花が叫んでいた。
「花奏!」
「修斗!」
それに混ざって聞こえたのは、音色の異なる複数の声。
「花奏先輩!」
「修斗!」
この場にいない、母の声すら聞こえた気がした。
ただでさえ重力があるこの地球上で、無防備な状態から地へ叩きつけられた俺は空で絶命した鳥より落下スピードが速いだろう。尾骨に響くほど尻を打つと、身体はカーリングのストーンに化す。男たちの汗で滑ったコートは滑りがよく、俺を舞台側面へ衝突させるまで、そう時間は要さなかった。
無慈悲に転がるボールが余韻を残す。