第1クオーター残り18秒。26対8。優勢な崎蘭校のオフェンス。時間的におそらくこれが、この回最後のプレーだろう。
 18点差という現実に、隆宗の所業が徐々に荒くなっていく。

「うぉりゃぁぁ!」

 ボールをなんとしてでも奪いたいその気持ちはわかるが、わざと爪を立て、引っ掻いてくることには賛同できない。

「いってえ……」

 この時点で、既に俺の腕には彼が作った3本の(すじ)。とても(しゃく)だった。
 それでも今は試合中。ゴールだけを考えていた俺は、ちぐはぐしたテンポのドリブルで隆宗を翻弄し、リングへ近付くことに集中していた。しかしそれは、シューズを踏み潰されたことによりぷっつん切れる。

「プッシング!白4番!」

 俺が「いてえ!」と叫ぶよりも前に、審判の笛が鳴る。隆宗が踏みつけたのはよりによって右足。痛みに拍車がかかる。

「今のプッシングどころじゃねぇだろっ……」

 しゃがみ込み足を押さえる俺の元へ駆け寄った哲也は、俺と同じ位置まで視線を落とす。

「修斗!大丈夫か!?」
「ああ……」
「右足だよなぁ!?痛がってたとこ!」
「大丈夫大丈夫っ。心配させて悪い」

 謝罪もせず仁王立ちする隆宗には、哲也が睨みをきかせていた。

「気をつけろ、修斗。さっきからあいつのプレーやべえよ」