キュッキュッ。キュッ。

 あれだけ疲労困憊していた身体も、この音を一度(ひとたび)聞けば奮い立つ。

 キュッ。キュッ。

 バスケットシューズが奏でるハーモニーは、俺の脳を覚醒させるんだ。

「ディフェンス!オールコート!」
「はい!」

 疼きは止まらない。

 昼休憩の30分をとっただけで、俺等のシューズは15時までずっとフロアを駆けていた。


「明日のスタメンを発表する」

 ボールを片付けモップもかけ終えたところで、部員を(まる)く集めた中川原が言った。

「4番、甲斐田」
「はい!」
「5番、桜井(さくらい)
「はい!」
「6番、塚本(つかもと)
「はい!」
「7番、南原(なんばら)
「はい!」

 スターティングメンバー4人の名をすらすら挙げたところで、彼は一旦口を結ぶ。妙な空気が束の間流れ、ゆっくり開けられたその唇。

「……3年のお前たちに、ひとつ聞きたいことがある」

 俺の背後でひそひそと、1年の誰かが「花奏先輩じゃねえの?」と言っていた。中川原は続ける。

「明日の相手は深間(ふかま)高校だ。はっきり言って強い。新人戦での圧倒的なプレーは、お前たちの瞼裏にまだ残っていることだろう」

 ダブルスコアどころじゃない大差をつけられ、深間校に負けて涙する甲斐田先輩の震えた拳は、まだ記憶のすぐそこに。

「ここから先は、どれが引退試合になってもおかしくない。1点でも負ければやり直しはきかん。終了だ」

 大きな唾を飲む音が、そこかしこから聞こえてくる。

「3年のお前たちがこのトーナメントに残したいのは記録か?それとも思い出か?」

 中川原のその質問は、ベンチ組へ向けられているのだろう。

「どっちだ」

 試合に出るのか、それとも応援にまわるのか。

「答えによっては最後のひとりの名前が変わる。クオーター毎に、昨日ベンチだった奴も全員出す」

 俺を使うのか、使わないのか。