「お疲れ様っ。最初ヒヤヒヤしちゃったけど、勝ててよかったあ」

 輪になり昼飯を食していた体育館裏、真那花がひとりでやって来た。哲也が聞く。

「あれ、友達と一緒じゃなかった?」
「なんかこれから彼氏とデートだって言って、さっき帰ったよ」
「そうなんだ」

 ふたりの間で交わされる「デート」という単語。なんだかそれだけでも全身むず痒くなった俺は、たまたま隣に座っていた太一にちょっかいを出すことでそれを和らげた。それなのに、真那花が次に口にしたのは俺の名だった。

「修斗、右足平気なの?最後の方少し引きずってた気がしたけど」

 ドキッとしたのは恋慕のせいと、狼狽(ろうばい)のせい。見破られて刹那嬉しく思ったが、公にはしたくないと思った。

「修斗、もしかしてこの前言ってた小指んとこ、まだいてえの?」

 そう哲也に心配されて、思い切り首を横に振る。

「ちょっとは痛いけど、試合には支障ねぇよ」
「ほんと?」
「ほんとほんとっ」

 ぺしぺしとシューズの先端を叩いて微笑んでみせれば、悪戯(いたずら)少年と化した太一が「ここ?」と小指部分を2本の指で押してきた。瞬間、走る激痛。

「いってぇ!まじでやめろ!」

 突として出した大声には、メンバー皆が箸を止めた。笑顔も作れぬ俺はただ、じんじんするそこに手をあてるだけ。
 哲也に肩を掴まれる。
 
「お、おい大丈夫じゃねえじゃんっ」
「平気だってば、へーき」
「次の試合勝ったら、明日は準決勝なんだぞ?」
「わかってるって」

 バッシュが小さい、バッシュを買おう。けれどどうやって買えばいい。借金と貧乏は未解決のまま。

 憂鬱に飲み込まれそうになっていると、ふと上から降ってきた真那花の声。

「修斗」

 そして華奢な手で取られた俺の腕。

「ちょっと来て」
「え、どこに」
「いいからっ」

 思わず確認してしまう、哲也の表情。しかし俺と目が合った途端に、彼は視線を他に向けていた。