1分間のタイムアウトを経て、自身の面前に来た敵の身長がぐんと下がったことに、千田はあんぐり口を開けた。

「な、なんで花奏が……?」
「え、俺の名前知ってんの?」
「知ってるよ。深間校との試合、観てたからな」
「ああ、先輩たちの代の試合か」
「お前みたいなチビじゃ、俺と競れないだろうに」

 その発言にかっちんと鳴る、頭の隅。俺はバッシュを指さした。

「最近これが小さく感じてるくらいだから、まだまだ伸びる予定」


 スリーポイントライン。パシュンと易々(やすやす)千田へ通ったパス。ダムダムボールをつきながら、リングへにじり寄る。彼はバックステップを踏まない、後ろへは絶対に下がらない。彼はさっきから、近い位置からのシュートしかしていない。

「わ!」

 ダスン!とボールがフロアで跳ねるよりも前に、千田が1文字叫んだ。彼の腰位置が高いお陰で、カットはしやすい。
 跳ね返ってきたボールを所有しゴールへ向かおうとすれば、「へい!」と哲也の声が聞こえた。俺がボールを叩いた時点でスタートを切ってくれていた彼は、それ以下の面子(めんつ)を突き放した先頭に。

「哲也!」

 シュッと放ったボールの行き先は哲也の2歩先で、到着予定時刻は彼が2歩進んだ頃。それを彼が受け取れば、レイアップのシュートが決まった。
 喜んでいる暇はない。すぐに栄枝校が攻めてくる。

「1本!」

 軽快にコートを駆けてきた中嶋は、千田とアイコンタクト。またすぐ出されるであろう彼へのパス。だから俺は、皆に言った。

「他のパスはどうでもいい!上からのパスだけ絶対通すな!」

 野太い「おう!」が返ってきて、味方の腕が一斉に上がる。
 モノレールも飛行機も手が届かないけれど、地で行き交う車ならば触れられる。一度(ひとたび)接触すれば、俺等のものに。
 宙の守りを固められた栄枝校は案の定、アンダーハンドやバウンドを利用したパスでなんとか千田へボールを送ろうとしてきた。パシュンとそれを奪うは俺。スタミナにおいては知り得ぬが、実力は負けていないから。

「花奏!いいぞ!」

 シュートを決めると、2回手を叩く中川原。
 32対41。点差を1桁に戻し、第3クオーターへと入る。