中川原の言った通り、チーム全体の身長は栄枝校の方が断然高かった。学武のマークマン6番千田(せんだ)なんて、190センチを超えている。
 開始のジャンプボールは、その千田の長い手から5番加賀谷(かがや)へすんなり渡ってしまった。

「斎藤!6番にパスを通すな!」

 楽しんでこいだなんて言ったくせに、中川原の唾は早速よく飛んでいた。でも千田にボールを渡したくない気持ちはよくわかる。

 俺は身長に大差のない4番中嶋(なかじま)のディフェンスをしながら、相手の出方をうかがっていた。もしも俺が栄枝校のコーチならば、パスで敵を散らした(のち)、最後は千田でゴール。そんな指示を出すだろう。だからほら。

「なかじ!」

 己をマークする哲也をコートの隅まで連れて行っておいて、中央付近にいる中嶋へとあっさりボールを戻す加賀屋。こうして俺等を翻弄して、ゴール下を空けて──
 でも。はたしてそうだろうか。今はトーナメント2日目だ。たったそれだけの戦術では、ここまで残れないかもしれない。

 不規則なドリブルをつきながら、中嶋は俺をゴール遠くへ連れて行く。背後でキュッキュと聞こえるは真斗のシューズ。千田同様190センチはありそうな7番伊之瀬(いのせ)を抑えることに忙しそうだ。
 俺の目の前中嶋は、ふいにシュートのフォームを構えた。これはフェイント、シュートはないと思ったが、万が一の時のために腕1本を真上へ上げた。もう1本はいつでもパスに反応できるよう待機。

 アーチを描いたボールがリングの元へと飛んでいく。リバウンド必須のシュートかと後ろを振り向けば、そこにはやはり千田がいた。

「ちっ、やっぱりかよ!」

 それはシュートに見せかけたパスだった。

 学武のディフェンスなんてなんのその。混雑していない高い宙でボールを受け止った千田は、そのまま涼しい顔でゴールを決める。

「よしっ」

 パスを送った中嶋も爽やか笑顔。

 栄枝校に深い詮索はいらない。このチームのジョーカーは、千田だ。