「おかえり修斗。鞄だけ廊下にあったけど、あんた1回帰ってきてたの?全然気付かなかった」

 家に帰れば、いつもと変わらぬ母の笑顔。

「うん。荷物だけ置いて、哲也と明日の作戦練ってた」
「そうだったの。こんなに寒いんだから家に呼んであげればよかったのに」
「いいよいいよ」
「夕ご飯食べる?」
「うん」

 今晩の夕飯は肉じゃがだった。いつもよりじゃがいもが多めに見えて、少しめげる。

「ところで新人戦はどうだった?」

 先に風呂を済ませると言った父がバスルームへと立ったから、いただきますは俺と母のふたりきり。

「勝ったよ。だから明日も試合」
「あら、おめでとう!じゃあ明日もお弁当作らなきゃね」
「少なくていいから」

 口をついて出たそれは、花奏家のふところ具合を懸念したから。目をぱちくりとさせた母が言う。

「どうして?いっつも足りないとか言うくせに」
「でもこれからは少しでいい」
「どうして?」
「なんでも」
「そう……」

 小さくなりつつあるバッシュ。切り出したいけど、切り出せない。
 すっきりしない顔をした母は、箸で割ったじゃがいもから熱を逃す。

「明日はお母さん、お父さんのお店で売り子やるから応援行けないけど、決勝は絶対に行くからね。だから必ず勝ってよ?」
「うん」
「母さんの生き甲斐は、あんたのバスケなんだからっ」

 ほくほくとじゃがいもを頬張りながら微笑む彼女を見て、俺も笑顔を貼り付けた。