帰り道。上着のポケットに両手を突っ込んでいると、真那花の手がそっとそこへ入ってきた。ぎゅっと握れば、哲也の顔がまた見える。

「修斗。明日の試合も観に行っていい?」
「あー、うん。いいよ」
「ありがとう」
「こっちこそ」

 キスを交わしたせいか、どこかぎこちない俺等の会話はこれだけだった。

「じゃあ、また明日な」

 真那花の自宅マンションの下。ポケットから出した手を解こうとするが、それは彼女に止められた。5本の指をしっかり絡め、上目で俺を見つめる彼女が聞く。

「さっきのキスってつまり、修斗も私のことを──」

 好きってこと?
 それはまだ聞かないで欲しいと思った。哲也が惚れている君と恋仲になる勇気が、俺にはない。
 
 強引に重ねた唇で真那花の口を塞いだ俺は矛盾でしかないけれど、「好きじゃない」と伝える度胸もなくて、こんな行動に至ってしまった。おもむろにその唇を離せば、彼女の頬はピンクに染まる。

「じゃあな、真那花」

 別れ際、こつんとつけた額と額。

「うん、ばいばいっ」

 それは己の赤面を隠すため。