2駅先へ来たところで、日中もとことん使った足が「勘弁してくれよ」と泣き喚く。小さな公園、空っぽなベンチがひとつ。俺はそこへ腰を下ろした。
 頭上の外灯に照らされて、惨めな影が見えてしまう。

「はぁっ、はぁっ……」

 揺れて揺れて、必死に酸素を取り入れて、生きている俺の影。そんなモノクロから目を逸らして辺りを見れば、懐かしい記憶が蘇った。この公園に来るのは初めてじゃない。小さい頃、母と訪れたことがある。

✴︎✴︎✴︎

「ママぁ、このこうえん、なにもなくてつまんないよお」
「ごめんね修斗。少しだけ休ませて」
「ママきもちわるいの?」
「うん、ちょっとだけね。でもこれは風邪じゃなくて、赤ちゃんがお腹にいるよーってお知らせなの」
「あかちゃん?ママのおなかに、あかちゃんいるの?」
「そうよ。来年には修斗、お兄ちゃんになるからね」

✴︎✴︎✴︎

 あの頃の母は、俺の弟だか妹を妊娠していた。しかしその1週間後くらいには、仏壇の前で涙していた。

 母さん、ごめんね。俺にしか会えなくて。


 (しお)れた花のような気分でただそこに(とど)まっていると、ふと振動したのはスマートフォン。俺は画面を見て驚いた。

「え、真那花……?」

 稀な着信、何故こんな時に。
 (かじか)む指が、ゆっくり通話ボタンをタップした。