第2クオーターを終えたハーフタイム。乱れた呼吸を整える。皆より確実に息切れしているのは俺。スタミナがない、これが今の1番の悩み。
 試合は42対37。崎蘭校の優勢だ。

「永井、大林と交代だ。動いとけ」

 そう中川原に命じられた永井太一の唇が、微かに震えたのが気になった。

「太一、頑張ろうな」
「お、おう」

 太一の肩を叩きにかっと笑って見せるけど、彼の表情筋は固い。ざわわと感じた胸騒ぎ。

 笛が鳴り、試合は再開。十神校の立ち上がりは早かった。
 弟から正確に出されたボールが兄の胸元へ収まると、彼はそのままリングに目標を設定して飛んでいく。思うままにはさせたくない。俺のシューズがキュッと止まれば、彼のシューズも行き場に迷う。
 刹那、兄が横目で見たのはスリーポイントシュートが得意な相川だった。彼へのパスか、それとも今のはフェイントか。兄の心の内を探る。

「相川!」

 やはり相川へのパスだ。そう判断した俺が1歩を踏み出してしまった時だった。

「え」

 相川とは真逆のサイド。ノールックで出されたパスは弟方面。哲也の「え」も小さく聞こえた。しかもそこはスリーポイントライン。その位置から得意げにシュートを放つ弟の姿は、事前の情報にない状況だ。

「きゃああぁ!!」

 大穴でしかない彼のゴールは見事に決まり、縮まった点差に十神校の席が(ぞめ)く。
 ハイタッチを交わした兄弟は、哲也と俺を見て笑った。俺等には予測できないと、彼等に予測された1件だった。