第1クオーターはまだ始まったばかりだから、焦る必要はない。けれど幾らか腹は立つ。

 次は崎蘭校が攻める番。ゆっくりとコートの中心へボールを運びながら、仲間の動きをチェックする。
 ゴール下の学武と真斗は、身長で敵全員に負けていない。そこへパスが通れば、確実に決めてくれるだろう。しかし問題は、目の前にいる明るい髪の持ち主だ。

「おい4番。ずいぶん長いことボールついてっけど大丈夫か?時間なくなるぜ?」

 ダムダムと一定のリズムに割り込んでくるしゃがれた声は、不協和音の発端でしかない。

「あと17秒もあるからいけるっしょ」
「17秒なんて一瞬だぞ」

 不快なこの音から逃れたくて、俺はドリブルをやめた。

「大林!」

 サイドにいた大林にパスを出した俺はゴールへと走った。次の動作を迷う彼に俺は叫ぶ。

「俺が取るから!(はな)て!」

 その言葉で彼はシュートのモーションへ。綺麗なフォームだったが、リバウンドは必須のコースだろう。

「させるか!」

 宣言を真に受けて、俺の前でゴールを見上げる兄。しめしめ、と思えば少し笑えた。

「俺、取る気ねぇよ?」
「は?」

 俺は身長のある学武か真斗にボールが渡って欲しいだけ。だから学武をマーク中の6番望月の脇にへばり付いた。

「な、なに!?」

 敵がシュートを放った今、リバウンドしか考えていなかったであろう望月は突然の出来事に驚いていた。学武と目が合い、顎で指示。彼は俺の横を抜けて行く。

「ス、スイッチだ!スイッチ!」

 獲物に逃げられてしまった望月は助けを乞うけれど、今は俺と学武以外の皆がリバウンドに全集中。誰もそんな余裕はない。
 リングにぶつかり跳ねたボール。競い相手のいない学武の長い手がそれをキャッチし、そのままシュート。シュパッと決まれば、気分は晴れる。
 これで2対2。振り出しだ。