「今日お前たちが勝ったのは、70パーセントの実力と30パーセントの運だと思え」

 中川原は、解散前のピロティーで言った。

「ワンゴール、ワンシュートがたまたま運良く決まっただけだ。今日はお前たちが悔し涙を流していたっておかしくなかった。そのくらい、接戦だった。次の試合はこんなに甘くないぞ」

 選手全員が努力し得た勝利なのだから、今日ぐらい褒めてくれよ、と思う。

「お前たちになくて、相手にあったもの。それはなぁ……」

 偉そうな訓示(くんじ)を述べ出した中川原の声を右から左へと受け流し、俺は今日の夕飯は何かと考えていた。


「今日もお前、うまかったなー」

 帰り道。同じ中学からこの崎蘭高校を受験した斎藤哲也(さいとうてつや)が言った。

「ラストのゴール、さすが修斗のシュートって感じだったぜ」

 ほれっとボールを放るジェスチャーをして見せた哲也に、軽く笑った。

「べつに、うまかねえよ」

 というのは建前で、同級生メンバーの誰よりも早い小学1年生からミニバスを始めていた俺には、同い年の皆に負けていない自信だけはあった。
 足元の小石をひとつ蹴った俺の顔を、哲也が覗く。

「修斗、中学の時からずば抜けてたもんなあ。なんで崎蘭なんか選んだの?もっと強い私立とか行きゃあよかったのに」

 そう聞かれて、もうひとつ石を蹴った。

「べつにー。通学遠いの嫌だし、勉強ついてけねーのも嫌だし」
「ふーん」
「崎蘭がちょうどよかっただけ」
「そっか」

 あともうひとつ理由を付け加えるとしたら、そんなに(うち)は、裕福じゃないってこと。けれどこれは言わないでおく。
 電車内の冷房ですっかり引いた汗が、改札を抜け歩けば再びじわりと滲み出す。夕方5時でも下がらぬ気温。

「あちぃ」

 夏休みはまだ長い。そして甲斐田先輩たちが引退するのは、この季節じゃない。