季節は進み、冷暖房器具が備えられていない体育館は、毎日外気と同じ気温。大きな箱の中で吐く白い息は、風が拐うでもなくそこに(とど)まる。でもそれはストレッチの時だけで、練習中は一切見えなくなるから不思議だ。

 俺等の代がまず目指すは、来月1月の新人戦。県内で2位以内に入れば、関東新人大会への切符を受け取れる。

「息上がりすぎだ花奏ぇ!スタミナつけろ!」
「はい!」

 涙なんか見せていい奴だなと思えたのは深間校に負けたあの日のみ。やはり中川原は厳しい鬼で、笑顔はないし眉間にはいつも皺が寄っている。

「そんなんじゃベンチにも入れんぞ!」

 そして、脅しも得意。

 俺等2年生は計16人。この数字は1番厄介だと思っている。何故なら試合に出られるのは15人だけだと決まりがあるから。24秒ルールも好かないが、この1年間だけはこのルールの方が嫌いだ。いつも同い年の誰かがユニフォームを貰えないなんて酷すぎる。

「ねえねえ修斗、ちょっといいか?ゴール下の動きで教えて欲しいことがあるんだけど……」

 そしてそれが、今のところだとたぶん彼。森田勘助(もりたかんすけ)という男。俺ほどの背丈で風貌も俺と似ているからか、校内では「じゃない(ほう)」と言われ後ろ指をさされている。無論、俺がそこに出くわせばその指の主を思い切り睨む。

「ああ、いいよ。俺でよければ」
「ありがとうっ。中川原の説明だといまいちわかんなくってさ」
「ははっ。あいつは怒鳴るばっかで語彙力がねえんだよ」
「俺もそう思う。けど言えねえよな」
「言ったら殺される」

 人一倍やる気はある、バスケ大好き野郎の勘助が俺は好きだ。