千葉県高等学校バスケットボール夏季大会3回戦敗退。それが甲斐田先輩たちの、最後の記録だった。

 崎蘭校に着いたメンバーは皆、葬式の参列者のよう。目を赤くさせた全員が、無言のままにピロティーへ。

「……今日(きょう)は」

 試合に勝とうが負けようが、決して賛称はしない中川原。苦言を(てい)するいつもの定位置に立ち、話を始める。

「今日のお前たちは……」

 そこで声が詰まった彼は、双眸を手で覆う。うう、と咽び泣くそのさまに、鼻を啜る音が四方八方から聞こえてきた。
 暫くして、ようやくその声が絞り出される。

「今日のお前たちは、今までで1番最高だった」

 滲む視界で確かに捉えた、彼のぐしゃぐしゃなその笑顔。

「あと数秒、あとワンゴールあればお前たちは勝てた。深間より弱いから負けたんじゃない、勝つのに時間が足りなかっただけだ」

 中川原がこんなことを言うなんて、先輩たちの代の終わりを感じてしまう。着々と実感がわいてくれば頬を伝う涙。周りを見れば、皆の頬にも同じもの。
 中川原はそんな俺等をゆっくり見渡してから、こう続けた。

「幸せをありがとう。お前たちのコーチができて、最後にこんなにもいいゲームを見せてくれて、感謝している。悔いがないかと聞かれればあると答えるが、これは残るような悔いじゃない。だから是非、コーチ最後の台詞として言わせてくれ」

 息を吸って、微笑んで。

「お前たちは強かった」

 そう言った。