第4クオーター途中、57対58。俺等は未だに1点後ろ。試合前にくれた先輩たちの言葉が、頭で巡る。

 引退の2文字はとりあえず忘れて、思いっきりやってこい。

 わかってる。その方が動きも固くならないし、伸び伸びとプレーできるってわかっているけど。

 今日を彼等の最後になんかさせちゃいけない。

 この思いが強すぎて、1点だけでも切羽が詰まる。


「パスください!」
「修斗!」

 駆け回り、やっとのことで得たボール。ダムダム低いところでついて、間淵を睨む。

「こいよ、ほら」

 攻めでも守りでも、間淵の態度は変わらない。敵を(あお)るのが彼の特徴だ。だけど今は最終クオーター。それに乗るとか乗らないとかの次元はとうに超えた。
 リングを見上げ身体を起こせば、それをシュートの動作と勘違いした間淵が天に掲げたパーで壁を作った。スリーポイントラインからも離れたこんな遠い場所からゴールを狙えるほど、俺が達人ではないと知っているはずなのに、これはほとんど反射的なものだろう。計算にはなかったが、有り難く利用させてもらう。

「わりい!カバー!」

 間淵の脇を抜けた時、彼はすぐさま助けを求めた。すかさず何人かが俺の道へと侵入するが、俺には他の道も見えた。
 ヴィクトリーライン。勝手にそう命名する。敵の数名が俺に近寄ったがために産まれた、閑散とした通りだ。そこを悠々進み、後はボールを輪へ送るだけ。コトンとほら、簡単だった。

「修斗すっごーい!」

 たかが1点、されど1点。今のシュートで逆転に成功した崎蘭校の応援席からは、真那花の黄色い声が最初にした。