キュッキュッ。キュッキュッ。キュッ。

 2対2の同点となった会場には、静けさが訪れた。今度は崎蘭校が攻める番。甲斐田先輩も佐藤と同様、人差し指を天井へ。

「1本大事に行くぞ!」
「おう!!」

 そう返事をしながらも、俺は目の前にいる木本の心を読んでいた。
 試合開始直後、彼はコーチに怒鳴られている。うちの3年生と同じく彼にとっても引退がかかった大事な一戦だ。ここはなんとしてでも、歳下の俺なんぞにパスを通したくはないだろう。

「桜井!」

 甲斐田先輩は、サイドから駆けてきた5番桜井先輩へとパスを送る。動き出した展開に、俺もゴール下へと足を向かわせた。そんな俺にのり付けされたように、木本がべったりとついてくる。
 何度か「へい!」と叫ぶけれど、俺はパスを貰えなかった。でもそれでいい。16番の俺にもパスがいくかもしれないと、深間校の連中が思えばそれで。

 パスを2、3回まわし、7番南原先輩がコートの隅、エンドラインギリギリでボールを受け取った。そのままシュートフォームへと入る彼の前、飯田が両手を高く掲げる。
 南原先輩の手から離れたボールは、リングに(はじ)かれ宙を舞う。木本に手前を取られた俺は、彼のトゲトゲした頭へ落ちてくるボールを目で追うのと同時に、リバウンドは諦めた。読むのは次。木本がパスを出す相手だ。

 ゲットしたボールを1度脇腹に沈めると、木本は味方へそれを放る。その行き先はきっとあそこ。俺が彼でも、選んでいたであろうあの相手。全速力で自身のリングへと、走り出していた佐藤のところ。

 成し得る限り使った跳躍力。手を伸ばすは木本が手放したボール。宙を彷徨(さまよ)うその(かん)だけは、これは誰のものでもない。奪ったもん勝ちだ。
 ダン!と聞こえた大きな音は、着地でよろけたくなかった俺が踏ん張ったから。

「お、お前!!」
「気が合ったっすね、木本先輩っ」

 佐藤で速攻、そのままゴール。木本と同じチームなら、以心伝心だったろう。

 仰天中の木本などいないも同然。俺は穏やかにシュートを放てた。スパンとボールがネットを潜れば、深間校ベンチから鬼の声。

「こらぁぁああ!木本ぉお!!」

 憤慨とはこのことだ。