開始10秒で決まった敵の先制点に、深間校のコーチは腹わたが煮えくり返っていた。

「木本!お前は歳下も抑えられんのか!」

 新人戦のデータとは大違い。そう困惑しているだろう。
 次は相手のオフェンスだ。俺等5人はコートの真ん中、センターラインで待ち受ける。
 人差し指をぴんと立てた深間校の4番佐藤(さとう)は、敵のいないハーフコートをゆっくり歩く。

「1本確実に取るぞ!」

 彼がそう叫べば、彼の仲間も「おう!」と吠えた。
 双方のシューズがキュッキュッとフロアを掴む。俺から甲斐田先輩の顔は見えぬが、彼の真正面の佐藤の目つきから、睨み合っていることは伝わった。
 俺のマークは8番飯田。さっきからちょこちょこと動き回る彼は、俺の体力を消耗させるのが目的だろう。パスを貰うなら動けばいいし貰わぬなら動かないで欲しい、なんて身勝手なことを思う。
 彼に翻弄されている()に、佐藤は味方7番の市川(いちかわ)に天高いパスを出す。その瞬間走り出すのは飯田。市川をマークしていた塚本先輩の脇へ、サナギのようにへばり付いた。

「花奏!スイッチ!」

 塚本先輩のその指示で、俺は自分より10センチは背が高い市川のマークへ代わる。足の長い市川の1歩は俺の1.5歩。既にスタートを切る彼を、俺は止められなかった。
 ガダンッとリングを抜けていくボール。フロアへ落ちればダムダムと、小さく跳ねて転がった。早くも呼吸を乱し始めた俺に、飯田は言った。

「もっとスタミナつけろよ2年坊主」

 うるせえ、と思うけれど、先輩だし逆らえない。

「あざっす、飯田先輩っ」

 まだまだ楽しい時間は、これからだけどね。