「修斗っ」

 定刻の9時を目前に、甲斐田先輩が俺に言う。

「修斗、頑張ろうな」

 3年生で唯一、下の名前で俺を呼ぶ憧れの彼。嬉しくて、むず痒くて、わくわくする。

「はい!」


 深間校は4番から8番まで、第1クオーターからベストメンバーを揃えてきた。そこにひとり、2桁の俺。相手コーチは指でメンバー表をなぞっていた。

木本(きもと)!お前やっぱり16番につけ!飯田(いいだ)と代われ!」

 俺のマークマンは、どうやら6番の木本という男に変更したらしい。8番の飯田では俺を抑えられないと、そういう判断をしてくれたのだと喜んでおこう。

 開始のジャンプボールは塚本先輩。俺の目の前、大きな数字の6が頭を上げさせた。頂点で、彼の手首が捻られたのを確認する。
 バスッ!という音と共にボールが飛ぶは、真後ろの俺方面。そのパスを寄越した塚本先輩は、着地と同時に俺のマークマン木本を阻む。

「な、なに!」

 満員電車の車両でも、ひとり新鮮な空気を吸えるほど大きい塚本先輩。深間校のジャンパーと明らかな身長差があるくせに、前へ送らず真後ろへ飛んできたボール。それだけでも木本は予想外だったろうに、さらに開始1秒で動きを封じられたのだから、さぞかし度肝を抜いただろう。
 素早いドリブルで、敵の隙間を縫っていくは俺。

「修斗!」

 そしてゴール下、名を呼んでくれた甲斐田先輩にビームの如くボールを投げればもう安心。彼は安定感のあるシュートでネットを揺らせた。

「よし!先制だ!」

 中川原の野太い声が、大歓声と一緒に耳へ届く。