会場である他校の体育館。朝早くの第1試合目にも関わらず、深間校の応援席は多くの人々で溢れていた。

「やっべ、俺等の席ガラガラじゃん。3年の保護者しかいねーぞ」

 あわわと口元へ手を運んだ哲也に、俺は言う。

「少ないなら少ないでいいじゃん。そしたら試合に出ない1、2年も、応援席座れるし」

 そこにはまだ、真那花の姿は見当たらない。

 2年生でベンチ入りしたのは俺と哲也と、井頭学武(いがしらまなぶ)。地元の異なる彼の名は、中学時代に耳にしていた。

「俺等出れんのかな?」

 哲也が学武に聞くと、彼はこう答える。

「俺は出なくていいわ。新人戦であれだけこてんぱんにやれたのに、敵うわけがないし」

 冷めた目で深間校の連中を見やる学武を見て、スタンスの違いを知った。勝ち目のない相手には挑みたくない。俺はそう、思ったことはない。


 試合開始の9時が近付くにつれ、心臓が騒ぎ出す。緊張感に包まれて、ただならぬプレッシャーが押し寄せる。
 崎蘭校の応援席は、徐々に隙間をなくしていった。その中の両親と目が合うと、ふたり共に振るのは手。

「アホか……」

 俺はもう、小学生ではない。高校2年生の息子に手を振ったところで返されないと知っているだろうに。そう呆れるけれど、3年前と比べずいぶんと仲睦まじくなった両親にホッとする自分もいた。借金返済は、順調なのかもしれない。

 パイプ椅子に座りバッシュの紐を最終確認していると、ユニフォームの上から部のTシャツを着た先輩8人が、俺の真上の光を遮った。見上げれば皆一様に、どこか覚悟を決めた顔。渡辺先輩が言う。

「花奏。引退の2文字はとりあえず忘れて、思いっきりやってこい」
「え……」
「今日を3年の最後にしちゃいけないとか余計なこと思わずに、いつも通りプレーしろ」
「で、でも」

 点差が(ひら)けば、まだ先輩たちだってコートの上に立てる。この試合に勝てば、明日がある。だから必ず俺が、俺がなんとかしてみせます。
 そう言おうとしたけれど、それは渡辺先輩の次のひとことで掻き消された。

「俺たちには、もう後悔なんかないんだって」

 彼の隣。瞳を潤ませた古屋先輩が言葉を繋ぐ。

「一昨日の試合も、最後の花奏のシュートがなかったらどうなっていたかわからない。無名な市立の崎蘭高校がトーナメントを勝ち上がって、深間とやれること自体がすごいんだ。新人戦のくじ引きなんかじゃない。実力でもう1度、深間と試合ができるんだ。だからお前には本当心底感謝している。ありがとな」

 ピピーとその時、笛が鳴った。

「試合1分前です!」

 8時59分。相手選手たちがセンターサークルへと向かう。おもむろに立ち上がった俺の頭は、順番に8つの手が掻き撫でた。

「花奏、思いっきり楽しんでこい!」

 闘魂みなぎるのはいつだって、こういう瞬間。

「はい!」

 コートへ踏み出した俺の背中を、最後に中川原が押した。