アラームが起動するよりも、母が俺を起こすよりも先に、斉藤哲也はやって来る。

「修斗ー!おっきろー!行くぞー!」

 時刻は6時10分。早起き馬鹿だとしか説明がつかぬ。ベッドを出ずとも手が届く窓を開けて、掠れた声で、彼を(なじ)る。

「うるせえよ!俺の部屋の前でこんな時間に大声出すんじゃねえ!」

 しかし彼はピカンと笑う。

「だって俺常識あるもんっ。インターホンはさすがに鳴らしちゃ悪いだろ?まだ家族みんな寝てるかもだし」
「じゃあ7時くらいまで待てよ!」
「今日は7時3分の電車に乗らなきゃ間に合わんぞ」

 2階に上がるのが面倒くさいとか言って、俺が1階のここを自室に選んだわけだけど、前言撤回しようかと本気で悩んだ。

「とりあえず入れてくれよーっ。こっから入っていー?」

 けれど犬みたいな尻尾が見えれば、なんだか憎めない。

「ちょ、ちょい待て。今玄関開けっから」
「ういー」

 30分後に鳴る予定だったアラームを止めて、俺はシーツから腰を上げた。