試合開始5分前。息を切らせた俺と真那花は、体育館2階、南山校側のギャラリーへ。そこにはベンチ入りできなかった1年生10人が、柵へ身を預けていた。

「花奏先輩来てくれたんすね!」
「待ってたっす、花奏先輩!」

 顧問の胸ぐらを掴む修羅場を見せつけ、それ以来練習にも顔を出していない俺を一切咎めない後輩たちの優しさに、胸には温かいものが染みていく。

「遅くなって悪い。どうだ?やっぱり相手、強そうか?」

 後輩ふたりが空けてくれてたスペースからコートを見下ろしそう聞くと、うーんと唸り声が返ってきた。

「そうっすねえ。さっきからあっちの4番、シュートばんばん決めてんすよ。まだ1本も、外すとこ見てないっす」

 4番横井。去年1年生だったのにも関わらず、3年生の試合に出た男。

「横井、ねえ……」

 ウォームアップ中の仲間には目もくれず、俺は横井だけを目に焼き付けた。彼の癖、特徴、得意な角度。1個たりとも見逃さぬように。

 審判の笛の合図で両校のスターティングメンバーが出揃うと、館内が歓声で埋まっていく。

「哲ちゃんー!いっけー!」

 無論、俺の隣の真那花は彼氏の名前を叫んでいた。
 審判の手からボールが離れ、ゲームは始まる。