「なあなあ修斗、土曜の月仲校との練習試合、うちが会場なんだって。だから後でトイレ掃除ジャンケンな、みんなで」
何も知らない哲也が陽気に話しかけてくる。体育館の床へ尻をつけ、バッシュの紐を結びながら俺は言う。
「俺、トイレ掃除やだあ」
「そんなんみんなそうだよ」
「パイプ椅子並べるのもめんどいし、タイマーの設置もかったるい」
「おいこら。それじゃあ試合できねえじゃんっ」
「はははっ。試合は好きだけど、準備は全部だるいんだよなあ」
「うっわ。なんでこんな奴がいっつも4番なんだよ〜」
でも哲也とのこんなやり取りが、いつも俺に元気をくれる。
話があると言ったくせに、いつもと変わらぬ態度、いつも通りのメニューで部活の時間を過ごす顧問。もしかして今朝は虫の居所が悪かっただけで、午後になり機嫌が直ったのかと、そう思わせるほどだった。
「集合!」
クールダウンのストレッチ終盤、彼は部員の皆を一箇所に集めた。こほんと咳を払い、威厳を保つ。
「少し早いが今週の練習試合の背番号が決まった。今からベンチ入りしたメンバーに、ユニフォームを渡す」
彼の足元に並べられた、4番から18番まで計15枚のユニフォーム。
「名前を呼ぶから取りに来い」
その言葉で、俺のかかとは半分浮いて歩む準備。
「4番、哲也」
しかしその瞬間、行き場を失くしたその足はフロアをスライド、そして止まる。眉を顰めた哲也と目が合い、空気が凍った。
「なにやってんだ哲也、早く取りにこい!」
「は、はい!」
顧問に怒鳴られ、慌ててユニフォームを手に取る哲也。円へ戻る際、「なんで俺?」と自身を指さし俺を見た。顧問は続ける。
「5番、智久。次、6番は──」
次から次へと呼ばれる同級生の名。俺以外の2年生皆にユニフォームが渡れば、最後の3枚は後輩である1年生の手へ。
「以上が土曜のメンバーだ。あとは応援に徹しろ」
茶番劇か、はたまた喜劇か。今の今まで、1度だってベンチからはみ出たことない俺が、学年で唯一ユニフォームを貰えなかった。
「土曜の相手はお前等も知っていると思うが、横井っていう──」
淡々と話を進めていく顧問に、着々と苛立っていくのは俺。
「まあ、そんな強敵でも弱点はあるから、」
「なんでっすか」
だから俺は、彼の話を遮った。
「なんで俺は、出られないんすか」
一気に集まる周りの視線。ググッと強く握った拳を放たぬよう、理性を利かす。大きな溜め息を吐いた顧問は、俺の面前までやって来るとこう言った。
「理由は己に聞け」
「は……?」
「今ここで俺の口から言っても構わんが、それはお前が望まないだろう。ただ俺がひとつ伝えたいのは……」
すうっと息を吸って、顔と顔を寄せる顧問。
「スポーツマンなら普段からスポーツマンらしくしろって、それだけだ。でなきゃ試合には出せん」
ピキンと俺の血管が浮き出たのはそれからすぐのこと。気付けば目の前に見えた胸ぐらを掴んでいた。
「おい修斗やめろ!」
「花奏先輩!」
哲也を含めた仲間たちが、俺を抑えにかかる。無理矢理引き剥がされた手はグーのかたち。血が昇った頭では常識などモラルなど、考えられる余裕はない。
「試合に出せよ!」
そう叫ぶけれど、顧問は胸元の皺なんかを伸ばしていた。
「無理だ」
「な、なんで…!」
「お前のこの行動が答えだろう。これのどこがスポーツ選手だ」
首を左右に傾けた彼が近付いてきたかと思ったら、俺よりもずっと太い腕で胸ぐらを鷲掴まれた。
「修斗。当日は応援にも来なくていい。少し頭を冷やせ」
何も知らない哲也が陽気に話しかけてくる。体育館の床へ尻をつけ、バッシュの紐を結びながら俺は言う。
「俺、トイレ掃除やだあ」
「そんなんみんなそうだよ」
「パイプ椅子並べるのもめんどいし、タイマーの設置もかったるい」
「おいこら。それじゃあ試合できねえじゃんっ」
「はははっ。試合は好きだけど、準備は全部だるいんだよなあ」
「うっわ。なんでこんな奴がいっつも4番なんだよ〜」
でも哲也とのこんなやり取りが、いつも俺に元気をくれる。
話があると言ったくせに、いつもと変わらぬ態度、いつも通りのメニューで部活の時間を過ごす顧問。もしかして今朝は虫の居所が悪かっただけで、午後になり機嫌が直ったのかと、そう思わせるほどだった。
「集合!」
クールダウンのストレッチ終盤、彼は部員の皆を一箇所に集めた。こほんと咳を払い、威厳を保つ。
「少し早いが今週の練習試合の背番号が決まった。今からベンチ入りしたメンバーに、ユニフォームを渡す」
彼の足元に並べられた、4番から18番まで計15枚のユニフォーム。
「名前を呼ぶから取りに来い」
その言葉で、俺のかかとは半分浮いて歩む準備。
「4番、哲也」
しかしその瞬間、行き場を失くしたその足はフロアをスライド、そして止まる。眉を顰めた哲也と目が合い、空気が凍った。
「なにやってんだ哲也、早く取りにこい!」
「は、はい!」
顧問に怒鳴られ、慌ててユニフォームを手に取る哲也。円へ戻る際、「なんで俺?」と自身を指さし俺を見た。顧問は続ける。
「5番、智久。次、6番は──」
次から次へと呼ばれる同級生の名。俺以外の2年生皆にユニフォームが渡れば、最後の3枚は後輩である1年生の手へ。
「以上が土曜のメンバーだ。あとは応援に徹しろ」
茶番劇か、はたまた喜劇か。今の今まで、1度だってベンチからはみ出たことない俺が、学年で唯一ユニフォームを貰えなかった。
「土曜の相手はお前等も知っていると思うが、横井っていう──」
淡々と話を進めていく顧問に、着々と苛立っていくのは俺。
「まあ、そんな強敵でも弱点はあるから、」
「なんでっすか」
だから俺は、彼の話を遮った。
「なんで俺は、出られないんすか」
一気に集まる周りの視線。ググッと強く握った拳を放たぬよう、理性を利かす。大きな溜め息を吐いた顧問は、俺の面前までやって来るとこう言った。
「理由は己に聞け」
「は……?」
「今ここで俺の口から言っても構わんが、それはお前が望まないだろう。ただ俺がひとつ伝えたいのは……」
すうっと息を吸って、顔と顔を寄せる顧問。
「スポーツマンなら普段からスポーツマンらしくしろって、それだけだ。でなきゃ試合には出せん」
ピキンと俺の血管が浮き出たのはそれからすぐのこと。気付けば目の前に見えた胸ぐらを掴んでいた。
「おい修斗やめろ!」
「花奏先輩!」
哲也を含めた仲間たちが、俺を抑えにかかる。無理矢理引き剥がされた手はグーのかたち。血が昇った頭では常識などモラルなど、考えられる余裕はない。
「試合に出せよ!」
そう叫ぶけれど、顧問は胸元の皺なんかを伸ばしていた。
「無理だ」
「な、なんで…!」
「お前のこの行動が答えだろう。これのどこがスポーツ選手だ」
首を左右に傾けた彼が近付いてきたかと思ったら、俺よりもずっと太い腕で胸ぐらを鷲掴まれた。
「修斗。当日は応援にも来なくていい。少し頭を冷やせ」