あれいつのまに。うっかりしていました。などと幼子が思いつくような言い訳ばかりタイピングしていた脳は、店主のひとことで直ちに停止。

「その体操着、南山中学のものだな。えーっと、なんて読むんだこの苗字。かなで……?」

 俺は俺を、大馬鹿者だと思った。罪を犯すのに、名刺代わりの生地を身に纏っているのだから。
 気まずそうに俯く俺の肩、店主の手が乗せられる。

「とにかく裏へ来なさい。こういう場合は学校と自宅に連絡しなくちゃいけない決まりになっているから」

 その瞬間、描いていた父の笑顔がぐしゃぐしゃになってゴミ箱へ捨てられた。


 迎えに来た母は、俺の頬を1発(はた)いた。

「欲のままに生きる人は、修斗のお爺さんみたいになるわよ」

 悪事を働いたのは確かに俺だが、その話は今関係ないと思った。

 母の手の平で下げさせられた頭は、無機質なボールのよう。店主が履いていた革靴のアッパーで舞う埃を、俺はただ目に入れていた。

 本屋から出るやいなやドスドスと、競歩のスピードで家路を行く母。俺はそんな彼女の背中を追いかけた。

「待ってよ母さん、ごめんって」

 声をかけるが返答はなし。俺は彼女の隣につける。
 
「おい、母さんってば。悪かったよっ」

 腕を掴み振り向かせた母の顔。それは憂いに満ちていた。

「お父さんには黙っておくけど、修斗まで私のこと裏切らないでよ馬鹿!」

 ひとひらの涙が落ちて、地面で跳ねた。