『今すぐ逢いたいから逢いに行く!』

 夕飯後。そんな一方的なメールを真那花へ送りつけ、俺は家を出た。
 きょろきょろと左右を見ながらマンションを出た彼女を発見すれば、親との再会を喜ぶ迷子のように飛びついてしまった。

「え、しゅ、修斗っ?」

 いきなり抱きつかれた彼女は困惑気味の様子。けれど俺の腕から逃れようとはしなかった。

「ど、どうしたの?こんなとこじゃ、恥ずかしいっ」
「じゃあ違う場所ならいいの?」
「え」
「誰の目にもつかないとこなら、真那花をずっと抱きしめてていい?」

 くぐもった声でする会話。そこで途切れたのは、「うん」の代わりに彼女が小さく頷いたから。


 真那花の自宅マンション。非常階段へと続く扉を開ければ、無機質な壁と階段だけ。洒落たミュージックも流れていないが、他人の声も一切聞こえない、俺等ふたりだけの空間。

「真那花、きて」

 俺はまた、抵抗しない真那花を抱き寄せる。

「中1の6月……練習試合あったの覚えてる?」

 首を縦に振った彼女に俺は続けた。

「あの時からずっと、真那花のことが好きだった」
「そう、なの……?」
「話したこともない俺の名前知っててくれて、応援してくれてさ。すげぇ嬉しかった。あんな気持ちになったの初めてだったから、すぐにこれが恋だとは気付けなかったんだ」

 真那花を意識した瞬間に、俺は恋に落ちていた。

「哲也と付き合った真那花を見て、何度も諦めようと思った。けれど全然無理でっ。哲也を応援したい気持ちと自分の感情に整理つけられなくて、真那花に中途半端なことしてごめんっ」

 ぎゅうっと抱きしめる腕に力を込める。ドクドクと速まる鼓動はもう、真那花にバレバレだろう。

「俺と、付き合ってもらえますか……?」

 絶対に外せないシュートをするよりも緊張した。けれど愛の告白くらい顔を見て言わねば失礼だと思い、俺はそこで力を緩めた。潤んだ瞳の真那花と目が合って、息を飲む。

「好きだよ、真那花。俺と付き合ってください」

 そしてはらり、彼女の瞳から舞う雫がダイヤのように輝いた。

「私も…私も修斗が好きっ、大好きっ。付き合ってくださいっ!」

 愛を確かめ合えば、我慢できなくなるのが男の(さが)

「んっ、修っ」

 こんなにも愛おしい人を前に、唇を重ねない男などいない。
 愛を押し付けすぎたせいか、真那花の背が壁につく。しんと何の音もしない非常階段に、俺と彼女の吐息が響いた。

 愛してる愛してる愛してる。もう絶対に、離さない。

 4年越しで実った初恋に、泣きそうになった。