「…哲也ぁ」

 (わだか)まりが解けのほほんとした雰囲気になるかと思いきや、今度空気を張り詰めさせたのは俺だった。

「俺、さ」

 言おう言おうともう何年も思っていたこと。それを今日、告げる。

「俺、真那花のこと好きなんだわ」

 ドクドクと速まる脈。哲也の反応を見るのも怖い。

「いつから?」

 飄々(ひょうひょう)と聞いてきた哲也に俺の声はくるんと裏返った。
 
「た、たぶん哲也と同じタイミング」
「え、まじで?」
「ま、まじ」
「じゃあ俺、今日はお前にもう1個謝らなきゃな」

 続きを話し出した哲也は、また変に(かしこ)まった態度。

「ごめん修斗。俺、真那花がお前のこと好きなの知ってたし、お前が真那花を好きなのかもしれないとも思ってた。それでいて、真那花と付き合ってたんだ」

 俺の気持ちを何故知っていたのかと考えるが、親友というだけで頷けた。

「真那花がまじで好きだった、修斗に渡したくなかった。でも結局真那花の心はいつも修斗に向いていて。3年以上もかかってようやく真那花の手、離すことができた。それなのに俺って奴はさ、まだどっかで足掻いてたんだよ。俺がフラれた側だって言ったら修斗は遠慮してくれるかななんて思って嘘ついたりして……でも、今日はっきりと修斗から真那花への気持ちを聞けたから、もう決めた」

 両肩にドンッと手を乗せられて、俺の背筋が垂直に伸びる。

「真那花と幸せになってよ、修斗」

 結婚式を控えた愛娘を送り出す父のように哲也が見えたのは、彼の心の中に真那花がいるから。
 渡したい、渡したくない。けれどここから先はもう、己が出る幕ではない。そんな顔をしていた。

「ありがとう、哲也」

 バスケ以外で初めて彼をカッコいいと思えた瞬間だった。