昨晩の両親の怒声が俺の胸を締め付ける中、土曜日朝の部活に参加した。

「へい!修斗パス!」
「哲也!」

 3年生が引退し、俺等の代になってから数ヶ月。哲也とはこの頃から相性がいい。お互いが望む位置、タイミングでボールはふたりの間を行き来する。

「うっわ!今のシュートずっりい!かっけえ!」
「ははっ。修斗にばっかいい思いさせねーよー」

 1番の友であり、良きライバルだ。


「今日も来るっしょ?俺んち」

 部活の帰り道。俺を含む同じ方角を行くメンバー4人に、哲也は聞いた。

「おう、もちろん行く行くー。コンビニ寄ってこうぜー」

 祐太(ゆうた)圭介(けいすけ)(しゅん)はいつも通り縦に首を振っていた。
 毎週土曜日の部活は午前で終了。練習が終わり、哲也の家で食べる昼飯が恒例になりつつあった。無論、俺等はバイトもできない義務教育の中学生。昼飯代に使えば使った分だけ、親に請求することとなる。

「修斗?」

 ほんの少しの躊躇(ためら)いが、(おもて)に出ていたのかもしれない。哲也はそれを見透かした。

「修斗も来れる?俺んち」

 借金という単語が鼓膜に張り付いて離れない俺だったが。

「おう、行く」

 仲間との楽しい時間を削る度胸もなかった。

 腹が減っては戦はできぬ。戦の後には腹が減る。皆はそれぞれカゴを持ち、ドカドカと食料を詰め込んで行く。うどんや菓子パンにファミリーサイズのポテトチップス。会計は優に4桁へ。
 手にしたおにぎり3つのうち、ひとつを戻した俺の手は、自ずと2リットル98円のミネラルウォーターを取っていた。

「え!修斗それで足りんの!?死ぬぜ!?」

 レジ前のアメリカンドッグを咥えた哲也は、目を見開いてそう言った。家計の何を気にすることなく買い物を出来る彼に、嫉妬した。そしてその気持ちは、虚しさへと変化する。

「本気で運動した奴は、逆に食う気力さえなくなるんだよ」

 苦い笑いを貼り付け誤魔化すことで、切なさをしまい込んだ。