28対40から始まった第3クオーター。
 19番のビブスを纏った俺は、4番横井のマークスタート。お伽話でもするかのように、ダムダムゆっくりドリブルをつく彼は、一体何を考えているのだろうか。
 仕掛ければ、すぐにでも取れそうなそのボール。股を(ひら)き、姿勢を低くし、チャンスをうかがう。

 しかし茶色いそれが消えたのは、それからすぐのこと。

 振り子のように放られたボールがフロアに最も近付いた時、俺の股をすり抜けた。慌てて上半身を捻り後ろを向くが、すでに10番古澤(ふるさわ)の手元へ渡っていた。
 腕1本分も離れていないその距離に俺は即反転、奪いにかかる。それなのに、またもや忽然(こつぜん)と消えたボール。それは俺の横髪をはらりと揺らす。

「ちっ!」

 目で追えもしなかったボールを発見すれば、舌打ちが出た。
 横井がどうして持っている、何が起きた、なんなんだ。
 巧みなボール(さば)きで彼が向かうはスリーポイントライン。綺麗なジャンプ、華麗にゴール。「よしっ」と最後に爽快な声。

 28対43。3年前見下ろしていた光景が今、特等席で再生される。