急に乱入してきた部員を出すなんて。
中川原の胸中が、そう顔に書かれている。確かにそんな前例など皆無だし、あり得ない。
やはり無理かと崎蘭校ベンチに諦めムードが漂ったその時、仏様のような声がした。
「コーチ。俺、花奏って奴と勝負してみたいです」
ボールを小脇に抱え、コートから駆けてきた4を背負った男。名乗らずとも誰だとわかる。全国レベルの人間だ。
「俺、ずっと花奏とやってみたかったんです。中学の時、間接的にやられて終わったんで」
横井は自身のコーチから俺に目を移すと、にやりと片方の口角を上げた。
「よう、南山中の花奏くん。お前永久4番だって噂なのに、なんで俺の前だといつもユニフォームすら着ていないんだ?花奏くんとの試合、今日楽しみにしてたのに。早くやろうぜ。3年も待たすなよ」
3年前、俺はすごく後悔したんだ。当時もズバ抜けて上手いと言われていた横井との対戦を、逃したこと。
自信に満ちた彼を見れば、背筋にピリリと走る電流。早くやりたい、バスケがしたい。崎蘭みんなで倒したい。そんな想いが燃えていく。
横井の言葉に戸惑いながら、こちらへとやってきた慶明校のコーチ。並んだふたりを前に俺は再度頭を下げた。
「お願いします。是非横井くんと、慶明高校の皆さんと、試合をさせて下さい。お願いしますっ」
ぎゅうと目を瞑ったのは、もう泣きたくなかったから。
「仕方ないな、まったく」
俺がその目を開けるきっかけとなったのは、中川原のそんなひとこと。咄嗟に上げた顔で確認したのは、コーチふたりの柔和な微笑み。
中川原が言う。
「相手のキャプテンがお前とやりたいって言うなら、俺に止める権利はないな」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ」
試合に出られる、バスケができる。ぽんぽん弾んだ胸が今にも飛んで出ていきそう。が、しかしそんな気持ちも次の瞬間には萎んでしまった。
「でもバッシュはどうするんだ。お前のじゃ小さくて足が痛いんだろ?」
「あ」
失念していたのは、命よりも大事なバスケットシューズ。
「ああ、えーっと……」
上履きでやるか、靴下でやるか。はたまたまたあのキツいシューズで?などと考えあぐねていると、後ろから肩を叩かれた。
「え、勘助……?」
振り返り見ればそこには、靴下姿になった勘助がいた。俺ほどの背丈で風貌も似ているバスケ大好き野郎の彼が、己のバッシュを差し出してくる。
「俺の使ってくれよ!サイズも同じだろ!?」
「え、でも」
汗ひとつとしてかいていない勘助から察するに、彼はまだ今日の試合に出ていない。それなのに俺へバッシュを渡してしまっては、出場の可能性も絶たれてしまう。
俺の意などお構いなしに、勘助は俺の足元でそれを揃えた。
「ちょっと臭いかもしんねぇけどそこは勘弁。これ履きやすいぜ!」
バスケがしたい。けれど味方の可能性を潰してまではしたくない。いつまでも渋る俺に、中川原が言った。
「大丈夫だ花奏安心しろ!今日は練習試合だ。あとで双方の1年も交えた試合も予定している、今日は全員出す!」
「コーチ……」
「だから早くしろ!ハーフタイムはもう終わる!」
無駄に強い口調だとは思うけれど、その言葉で安心した俺は、勘助の温もり残るシューズに足を突っ込んだ。キュッと紐を結んで勘助と目が合えば、彼は指で輪っかを作った。
中川原の胸中が、そう顔に書かれている。確かにそんな前例など皆無だし、あり得ない。
やはり無理かと崎蘭校ベンチに諦めムードが漂ったその時、仏様のような声がした。
「コーチ。俺、花奏って奴と勝負してみたいです」
ボールを小脇に抱え、コートから駆けてきた4を背負った男。名乗らずとも誰だとわかる。全国レベルの人間だ。
「俺、ずっと花奏とやってみたかったんです。中学の時、間接的にやられて終わったんで」
横井は自身のコーチから俺に目を移すと、にやりと片方の口角を上げた。
「よう、南山中の花奏くん。お前永久4番だって噂なのに、なんで俺の前だといつもユニフォームすら着ていないんだ?花奏くんとの試合、今日楽しみにしてたのに。早くやろうぜ。3年も待たすなよ」
3年前、俺はすごく後悔したんだ。当時もズバ抜けて上手いと言われていた横井との対戦を、逃したこと。
自信に満ちた彼を見れば、背筋にピリリと走る電流。早くやりたい、バスケがしたい。崎蘭みんなで倒したい。そんな想いが燃えていく。
横井の言葉に戸惑いながら、こちらへとやってきた慶明校のコーチ。並んだふたりを前に俺は再度頭を下げた。
「お願いします。是非横井くんと、慶明高校の皆さんと、試合をさせて下さい。お願いしますっ」
ぎゅうと目を瞑ったのは、もう泣きたくなかったから。
「仕方ないな、まったく」
俺がその目を開けるきっかけとなったのは、中川原のそんなひとこと。咄嗟に上げた顔で確認したのは、コーチふたりの柔和な微笑み。
中川原が言う。
「相手のキャプテンがお前とやりたいって言うなら、俺に止める権利はないな」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ」
試合に出られる、バスケができる。ぽんぽん弾んだ胸が今にも飛んで出ていきそう。が、しかしそんな気持ちも次の瞬間には萎んでしまった。
「でもバッシュはどうするんだ。お前のじゃ小さくて足が痛いんだろ?」
「あ」
失念していたのは、命よりも大事なバスケットシューズ。
「ああ、えーっと……」
上履きでやるか、靴下でやるか。はたまたまたあのキツいシューズで?などと考えあぐねていると、後ろから肩を叩かれた。
「え、勘助……?」
振り返り見ればそこには、靴下姿になった勘助がいた。俺ほどの背丈で風貌も似ているバスケ大好き野郎の彼が、己のバッシュを差し出してくる。
「俺の使ってくれよ!サイズも同じだろ!?」
「え、でも」
汗ひとつとしてかいていない勘助から察するに、彼はまだ今日の試合に出ていない。それなのに俺へバッシュを渡してしまっては、出場の可能性も絶たれてしまう。
俺の意などお構いなしに、勘助は俺の足元でそれを揃えた。
「ちょっと臭いかもしんねぇけどそこは勘弁。これ履きやすいぜ!」
バスケがしたい。けれど味方の可能性を潰してまではしたくない。いつまでも渋る俺に、中川原が言った。
「大丈夫だ花奏安心しろ!今日は練習試合だ。あとで双方の1年も交えた試合も予定している、今日は全員出す!」
「コーチ……」
「だから早くしろ!ハーフタイムはもう終わる!」
無駄に強い口調だとは思うけれど、その言葉で安心した俺は、勘助の温もり残るシューズに足を突っ込んだ。キュッと紐を結んで勘助と目が合えば、彼は指で輪っかを作った。