勢いよく開けた扉。それと同時に声を張る。
「遅れてすみませんでした!」
試合はハーフタイム中。雄叫びにも似たその声に、館内中が静まり返る。
仲間の顔を見ればすぐにわかった。ああ、負けているんだなって。
「花奏!一体なにしに来た!お前に用はない、帰れ!」
パイプ椅子へ尻をつけたまま、激怒したのは中川原。俺もこの場から叫ぶ。
「すみませんでした!どうか俺も、試合に出させてください!」
「だめだ!」
崎蘭校のベンチを挟んでするやり取りに、そこに座り休息をとっていた仲間の首が右往左往。そんな彼等の前を通り、中川原の元へと向かった。
「え、お前なんで靴下……」
哲也の声は、中川原の真横から小さく聞こえた。
「コーチ、すみませんでした」
深々と頭を下げて、そう言った。ボールをつく音も会話ひとつも聞こえてこないのは、こんな無様な姿の俺に今、注目が集まっているということ。
「謝っても変わらんぞ!とっとと帰れ!」
「すみません」
「帰れ!」
「すみませんっ」
ごめんね、父さん母さん。俺やっぱり諦めきれないや。見窄らしくたってなんだって、バスケがしたい。
「バスケットシューズを買うため、バイトをしていました……」
誠を話し始めた途端、視界が滲んだ。
「父の経営する店がうまくいっていなくて、家には借金があるんです。小さくなり足を痛めるバッシュを買い替えたいと親に頼むことができず、バイトをして購入しようとしてました……」
揺蕩う瞳で見えるのは、有名スポーツメーカーのロゴ。この靴下1足買うのにも財布と睨めっこをしていた母を思い出せば、白いそれに涙がぽたぽた落ちていく。
俺は鼻を啜った。
「は、恥ずかしい気持ちが勝ってしまい、コーチにも仲間にも、親にだって嘘をついていました。シューズが小さくても意地で乗り越えたいと思いましたが、どうしても足が痛くて耐えきれなくて……だから、だからどうにかして自分でお金を稼いでっ」
「花奏」
そこで中川原の声がした。ゆっくりと上げる顔、涙は拭わない。
「いつから痛かったんだ」
帰れと言わなくなった彼には、何かが届いたのだろうか。
「新人戦初日です」
「それからずっとか?」
「はい」
彼の表情に、情けや哀れみは感じない。ただ真剣な顔で俺と向き合おうとしてくれていた。
「流羽武校とのゲーム前、俺は花奏に聞いたはずだぞ。スタートからいけない状態なら今すぐ断れと」
「はい」
「何故その時に言わない」
その時フラッシュバックされたのは、決勝トーナメントでしか味わえないあの景色。俺等なんかよりもはるかに強そうで、負けるかもしれない強豪相手に挑めるあの興奮。
「バスケが好きだから……」
だから、俺は。
「バスケがしたくて、言い出せませんでした……」
揺れる息をひとつ吐いた中川原の横一線。一部始終を見ていた15人の仲間が席を立ち、俺を囲んだ。
最初に発言したのは哲也。
「コ、コーチ!今日は練習試合だし、修斗を出させてやってくれませんか!?お願いします!」
頭を限界まで下げた彼に続いたのは、太一だった。
「お、俺からも頼みますっ。修斗が足を痛がっていたことは、みんな把握していたんですっ。なのに俺たちは深く受け止めることもせず、試合でも修斗に頼ってばかりいましたっ。だから、だから俺たちも悪いんです!どうか今日の試合、修斗と一緒にやらせてください!」
そう言った太一も腰を折り曲げると、「お願いします!」と皆の頭が下がっていく。
「み、みんな……」
感極まり、涙の温度が急上昇。熱いそれが目頭へ溜まっては、目尻から溢れて落ちる。
中川原は、ばつ悪そうに相手のベンチに目をやった。
「遅れてすみませんでした!」
試合はハーフタイム中。雄叫びにも似たその声に、館内中が静まり返る。
仲間の顔を見ればすぐにわかった。ああ、負けているんだなって。
「花奏!一体なにしに来た!お前に用はない、帰れ!」
パイプ椅子へ尻をつけたまま、激怒したのは中川原。俺もこの場から叫ぶ。
「すみませんでした!どうか俺も、試合に出させてください!」
「だめだ!」
崎蘭校のベンチを挟んでするやり取りに、そこに座り休息をとっていた仲間の首が右往左往。そんな彼等の前を通り、中川原の元へと向かった。
「え、お前なんで靴下……」
哲也の声は、中川原の真横から小さく聞こえた。
「コーチ、すみませんでした」
深々と頭を下げて、そう言った。ボールをつく音も会話ひとつも聞こえてこないのは、こんな無様な姿の俺に今、注目が集まっているということ。
「謝っても変わらんぞ!とっとと帰れ!」
「すみません」
「帰れ!」
「すみませんっ」
ごめんね、父さん母さん。俺やっぱり諦めきれないや。見窄らしくたってなんだって、バスケがしたい。
「バスケットシューズを買うため、バイトをしていました……」
誠を話し始めた途端、視界が滲んだ。
「父の経営する店がうまくいっていなくて、家には借金があるんです。小さくなり足を痛めるバッシュを買い替えたいと親に頼むことができず、バイトをして購入しようとしてました……」
揺蕩う瞳で見えるのは、有名スポーツメーカーのロゴ。この靴下1足買うのにも財布と睨めっこをしていた母を思い出せば、白いそれに涙がぽたぽた落ちていく。
俺は鼻を啜った。
「は、恥ずかしい気持ちが勝ってしまい、コーチにも仲間にも、親にだって嘘をついていました。シューズが小さくても意地で乗り越えたいと思いましたが、どうしても足が痛くて耐えきれなくて……だから、だからどうにかして自分でお金を稼いでっ」
「花奏」
そこで中川原の声がした。ゆっくりと上げる顔、涙は拭わない。
「いつから痛かったんだ」
帰れと言わなくなった彼には、何かが届いたのだろうか。
「新人戦初日です」
「それからずっとか?」
「はい」
彼の表情に、情けや哀れみは感じない。ただ真剣な顔で俺と向き合おうとしてくれていた。
「流羽武校とのゲーム前、俺は花奏に聞いたはずだぞ。スタートからいけない状態なら今すぐ断れと」
「はい」
「何故その時に言わない」
その時フラッシュバックされたのは、決勝トーナメントでしか味わえないあの景色。俺等なんかよりもはるかに強そうで、負けるかもしれない強豪相手に挑めるあの興奮。
「バスケが好きだから……」
だから、俺は。
「バスケがしたくて、言い出せませんでした……」
揺れる息をひとつ吐いた中川原の横一線。一部始終を見ていた15人の仲間が席を立ち、俺を囲んだ。
最初に発言したのは哲也。
「コ、コーチ!今日は練習試合だし、修斗を出させてやってくれませんか!?お願いします!」
頭を限界まで下げた彼に続いたのは、太一だった。
「お、俺からも頼みますっ。修斗が足を痛がっていたことは、みんな把握していたんですっ。なのに俺たちは深く受け止めることもせず、試合でも修斗に頼ってばかりいましたっ。だから、だから俺たちも悪いんです!どうか今日の試合、修斗と一緒にやらせてください!」
そう言った太一も腰を折り曲げると、「お願いします!」と皆の頭が下がっていく。
「み、みんな……」
感極まり、涙の温度が急上昇。熱いそれが目頭へ溜まっては、目尻から溢れて落ちる。
中川原は、ばつ悪そうに相手のベンチに目をやった。