「まだ若く可能性に満ち溢れ最近婚約し同棲してる男と順風満帆で口喧嘩のネタといえばファーストフード店のポテトフライ、看護師の資格があり仕事は出来て優遇され給与はありやがて面倒ごとも寿命と同時にひとりでに過ぎ去ってくれるだろうさっさと死ね終われ仕事ならするからなんてそんな惰性で患者と向き合う君に私の何がわかるんだ」
「わかんないっす」
「…」

「つか、わかりたくねっす」





「そんな卑屈になって人生楽しいんか」





 丸椅子から立ち上がり、チューブを通した私のベッドにのしかかる。胸ぐらを掴み、抗おうとすると笑顔のまま狂気に溢れた瞳が怒気を孕んで、泣いていた。

「こっちから願い下げだこんな余命宣告者、って簡単に匙はいくらだって投げられる。ほっときゃ死ぬし白衣の天使だはぁふざけんなこちとら生活のためにやってんだ誰が好きでジジイの排泄手伝うんだよ噛みつかれても真顔でやってんだよ耐えてんだよ泣くの堪えてんだよここまで来たんだよってそれでも向かい合ってりゃその人が笑ってくれるからってやりがい見つけてそれでもこちとら真面目にやってんだ」
「…」
「生きたいなんて無理に思わなくてもいい」
「蓮実くん」

「なんとかなるっす。命さえあれば」





 死ぬこと以外はかすり傷、でしょ。

 そう、どこかで聞き飽きたフレーズを、彼女は口遊んでいた。そのあと、数日過ごした。蓮実れんと過ごした時間は将棋や、麻雀や、そんな素行の知れたものばかりで、育ちの悪さを彼女に指摘するとそれでも並びのいい歯を見せて笑っていた。明日もある。明日もよろしく。喧嘩をして、ぶつかり合い、そして馴れ合うように和解して、明日を待った。

 その明日は、来なかった。

 翌日も、明後日も、その次の日になっても、彼女は病室に来なかった。
 私が入院してから三ヶ月。余命三ヶ月の時期がとうに過ぎてしまい、季節が移り変わる中、大部屋の角で過ごす1人の時間は、酷く長く感じた。
 彼女との日々は、ちぎれたように終わったのだ。













 程なくして、私が望んだ自宅療養の許諾が降り、世界は雪化粧になった。窓の中からしんしんと降り注ぐ空を眺めるには冷たく、寒く、凍えていた。行かなければならない、そう、自分を叱咤していた。

「…蓮実さん?」
「いたでしょ、数週間前まで私の担当をしてくれていた看護師の」
「あぁ、えっと、彼女は…」

「?」