「青柳、ちょっといいか」



入学して2週間が経った日のお昼休みのこと。廊下側の最前列───私の前に座る黒髪の男が、入口のドアからひょっこり顔を出した先生に呼ばれているのを見た。

「また来たんすかぁ」と気の抜けた声で返事をする黒髪。入学したての中坊がそんな舐めた態度とってたらそのうち怖い先輩に呼び出されちゃうんじゃないのかな。机の上に広げたお弁当の蓋をあけながら、凝視しない程度にその様子を見つめる。



青柳 茅人。

稀に見るちゃんとイケメン、なのだと思う。

この2週間、後ろから彼のことを見ていたけれど、彼の素行と言えば、休み時間は読書、授業中は居眠り、お昼休みは読書。真面目なのか不真面目なのかわからないけれど、爽やかな見た目からして、読書が趣味というところにギャップを感じた女子生徒がすでに一部にいるらしく、不要なコミュニケーションを取りたがっているところをよく見かけている。



「青柳、おまえ入部届けまだだろ」
「もー、先生しつこいっすよ。入らないって」
「おまえが居たら今年こそ全国に行けるかしれないんだよ」
「俺がいなくても全国に行ける部活にしてくださいよ」
「おまえ、どうしてサッカー続けないんだ」
「寝る時間が減るからですわそれ以外にないっす俺にとって寝ることつまりそれは生きることオッケー先生、お引き取り願う」