───コンコンコン、
ノックの音がした。部室の外で待たせていたことを危うく忘れそうだった。つい1週間まえまで夏休みだったから、まだ脳が学校モードに切り替わっていないのかもしれない。いけない、しっかりしなければ。
がちゃり。扉を開けて、一人の男子生徒を部室に招き入れる。彼の姿をとらえてすぐ、「あれ」と、畳の上に居た黒髪が本を閉じて起き上がった。
「山口じゃあん」
「おー青柳。来ちゃった」
「来ちゃった、じゃねえわ。おれらの仕事増やすな ばあか」
だるそうにため息を吐いた失礼極まりない黒髪に、山口と呼ばれた彼はハハと軽く笑った。
高い身長に白い肌。長袖のワイシャツを3回ほどまくっているのか、肘から下が覗いていて、男子特有の血管が顔を出している。短く切られた黒髪に、笑うとできるえくぼ。おまけに全体的に漂う爽やかなオーラ。所属はバスケ部。彼のことを好きだという女子の話も何度か耳にしたことがある。
「とりあえず、どうぞ座って」
「あ、あざす」
先ほど黒髪の失礼野郎を退けたばかりのソファに山口くんを通し、私はテーブルを挟んだ向かい側に木製の椅子を置いて座った。
ちなみに、背中越しに部員2人の視線を背負っている。
「2年B組の山口 碧衣です」
彼が名乗る。名前までイケメンなのか、と頭の片隅で思う。
山口 碧衣。彼こそが、我が部活に2ヶ月ぶりに仕事をもちかけてきた生徒である。