「幽霊になろうが透けようが、それでもお前はまだ俺たちの目に映ってるし、声も聞こえてんだよ。消えてないってことはお前がまだここにいたいことの証明だろ。お前だけの判断で勝手にいなくなんなよ」

「…っ、でも、おれがいたらふたりの邪魔する……」

「だからぁ、それが勝手だって言ってんだよ。お前は耳ねーんか? 俺たちがいつ邪魔って言ったよ? 邪魔だと思ってるやつのこと、こんなとこまで探しに来るかっての」



ぶっきらぼうな優しさに涙があふれる。おれはずっと、茅人にそう言って欲しかったのかもしれない。勝手な想像で保険をかけて、本当にそうだった時のために備えていた。「わかってるから大丈夫だよ」と言う準備ばかり万端にして、おれは逃げてきた。



「……っごめん…、茅人…、椎花」



茅人と椎花のせいで、おれはどんどん欲張りになっていく気がする。


本当は死にたくなかった。茅人と喧嘩したままいなくなりたくなかった。ワンをいつか見せると言っていた約束をちゃんと果たしたかったんだ。ふたりに幸せになってほしい。そんなふたりを、おれは一番近くで見ていたかった。


誰が好きとか、邪魔とか、そんなのは重要じゃなかったんだ。




「おれ……まだもう少しふたりと一緒にいたいっぽい……」


ただ、おれが、ふたりともっと一緒に生きていたかっただけだから。



「“ぽい“じゃなくて”一緒にいたい“んだろ」
「…うん……。茅人って……そういうの気にするタイプだ……」
「それだと俺が人の揚げ足とってるみたいになるからやめろや」
「実際そういうところあるでしょ」
「あ。てか椎花さっきの続きなに? 『私があんたのこと』ってやつ」
「は? なんも言ってないし。は?」
「椎花も大概意味わかんねー奴だなまじで……」


涙を拭った時、おれの手のひらの輪郭はぼやけていた。