放課後のチャイムが鳴って、一番に教室を飛び出す。

部室へ向かった。

彼女とほぼほぼ一ヶ月ぶりくらいにやりとりしたメッセージで、約束も取り付けた。

俺は写真部で一番新しい三脚を抱えると、貸し出しノートに名前を書き込む。

ホワイトボードの出欠表を「校内」に動かした。

「あ、圭吾。ちょっと聞いたんだけど……」

「すみません、急いでるんで!」

 希先輩の呼びかけだって、今日は無視だ。

なんだかもの凄く緊張している。

誰かと約束をして待ち合わせるのって、こんなにも気を使うものだったんだ。

体育館へ向かう。

公会堂での上演に備え、最終チェックを兼ねた、大がかりな予行演習を予定していた。

これが校内では最後の練習となるようで、俺が着いた時には、すでに沢山の人や道具であふれていた。

「結局、舞香にモデル頼みやがって」

 正式に手伝いを引き受けることになった俺は、部長である荒木さんへ挨拶に行く。

さっそくイヤミを言われた。

「上手いことやってんな。ま、応援すると言った事に、変わりはないから。頑張れ。色々な意味で」

「色々な意味でね」

「ま、こちらとしてもありがたい話しだし? さすがはうちの優秀なマネージャーだ。我が身を犠牲にしてでも、ちゃんと成果を取ってくる」

 ニヤリと笑った荒木さんの、その笑顔の方が恐ろしい。

我が身を犠牲ってさ……。

俺の立場はどうなってんの?

今日は体育館を貸し切ってしまっているから、舞台がちょうどよく撮せる、正面中央にビデオカメラをセッティングする。

「わー、ありがとう! 助かる~」

 舞香が駆け寄ってきた。

「とりあえず、全体を撮影するのはこのカメラでいいとして、後は舞台下での撮影だよね」

 役者の動きに合わせて、胸から上のアップも撮影出来るようにしたい。

より動画の視聴者が見やすく、分かりやすい編集が出来れば、その先のコンクールの映像審査でも、優位に働くだろう。

実際に上位常連校はどこも、ただ全体を撮影しているだけではなかった。

「もちろん舞台自身の、中身が一番重要だってことは分かってるんだけど、やれるだけのことはやっておきたいの」

「うん。その気持ちは分かるよ」

 だから俺だって、協力してるんだし……。

まぁ、後で自分のモデルも、個人的に頼んでるし?

「あ、舞香ちゃん。よろしくねー」

 山本がやってきた。

俺は彼女にくっついて撮影テクニックを教え、コイツはその補助をする。

「舞台右袖が舞香ちゃんの担当で、俺が左側ね」

 山本め、ニヤニヤしやがって。

お前の狙いは別の子だっただろ。

三人で台本を広げた。

ホンは読み込んで来た。

山本との、役割分担の打ち合わせも出来ている。

それを今日の実践で試してから、公会堂での撮影に挑むつもりだ。

山本は俺の耳元でささやいた。

「ようやく動いたか。それでも動けてよかったよ」

「何がだ」

 やっぱりニヤリとだけ笑った。

どいつもこいつも、俺をバカにしやがって。