部室に入ると、一番にパソコンを起ち上げる。

起動するのを待つ間に、俺はスマホを取り出した。

来る予定もないメッセージを、こまめにチェックするのがすっかり日常業務になってしまっている。

最後にメッセージを送ったのは、もう2週間以上も前のことだ。

内容は動画編集のやりとりだ。

自分から彼女に何かを送るにしても、その文字をどう打つか、真剣に考えている。

『ちょっと聞きたいことがあるんだけど』とか、『今度話す時間ある?』とか、そんな文字を打っては消し、また打っては消すということを、またここで繰り返していた。

最終的に思いついたのが『もう写真部に来なくて平気?』だ。

送信ボタンを押すか押さないか最後まで散々迷ったあげく、結局それもイヤミのような気がして、消してしまう。

結局ここで何も出来なくなるのが、俺なんだなぁ。

「はぁ~」

 ため息をついたところで、部室の扉が開く。

みゆきだ。

「あぁ、圭吾。ちょうどよかった。荒木さんが体育館来いってよ」

「なんで?」

「あんたがまだモデル頼んでないからだって、言ってた」

 ふと気になって、聞いてみる。

「みゆきは誰に頼んだの?」

「私? 私は特に誰って決めてない。色んなところを、ただ自由に撮らせてほしいって頼んだ」

「山本は?」

「俺は1年の川崎さん。ちっちゃくって可愛くってさぁ~。いいよねー、ああいう子」

 山本はやっぱ大丈夫そうだ。

心配して損した。

川崎さん? 衣装係の子か。

そういえば大量の生地を持ち込んで、そこに埋もれてたな。

「……。あれ? それって家庭科部の子じゃなかった?」

「なんだよ圭吾、お前も狙ってたのか」

「違うよ」

「とにかく、荒木さんの伝言は伝えたからね」

 みゆきはカメラを手にすると、すぐに出て行く。

行き先は知っている。

俺が行けない、演劇部のいる体育館だ。

「……。希先輩も体育館かな」

「じゃない?」

 山本は憐れむような目で、俺を見下ろした。

「お前ものんびりしてないで、頑張れよ」

「なにを!」

「……。舞香ちゃんと希先輩。荒木さんに夢中だぞ」

「そりゃみゆきだってそうだろ」

「イケメンは強いなー」

 みゆきはともかく、舞香と希先輩は違う。

いや、違わないのかもしれないけど、俺がいま考えるべきことは、そういうことじゃないだろ。

本当は事態は、もっと深刻なのかもしれない。

出来ることなら、一番に彼女に確認したい。

体育館に行けば、そこにいるのは分かっている。

先に捕まえれば何とかなるかもしれない。

肩までの髪が揺れている。

「行くか。体育館」

 決意を込めて絞り出したその言葉に、山本は呆れたように笑った。

「お前くらいだよ。来てないの」

 行ってみれば、二階席のほとんどが、演劇部関係者で埋め尽くされていた。

衣装や小道具の類いが広がり、照明や音楽の担当も打ち合わせをしている。

手伝いにかり出された家庭科部や美術部、放送部員なんかまでが、勢揃いだ。