宝玉をもらった俺がどうなったかというと、特に何にも一切変わらなかった。

特殊能力に目覚めるとか、チートスキルが発動するとか、そういったことはびっくりするくらい何もない。

「もうちょっとさぁー、なんかあってもいいんじゃないんっすかねー。ねぇ、なんかあるでしょ、普通。変化とかが。せめて」

「あ? なんの話しだ」

 荒木さんに聞いても、それが素なのか演技なのか、さっぱり話しが通じない。

よく考えてみれば、このヒトは演劇部の部長をやってるんだ。

その言動に、どこまで信用をおけるのだろう。

 いつものように平和な放課後だ。

運動部のかけ声が、すっかり涼しくなった空に響く。

演劇部は、もう来年の公演に向けて準備を始めていた。

体育館横の野外練習場で、新部長が指揮を執る。

その横で荒木さんは、古くなった小道具の整理をしていた。

「もっとこう……分かりやすく……。なんとかさぁ……。空が飛べるとか、波動が使えるとか……」

「だからなんだよ。それが俺になんの関係がある。お前の話はいつも意味が分からん」

「マ、ジ、で。俺もそう思ってますよ」

 彼は俺を見下ろすと、フッと笑った。

「好きにしろよ。自分の思う通りに。好きなようにさ」

 その手が伸びてきて、俺の耳を引っぱった。

「痛いって!」

「はは」

 本当にこのヒトほど、どこまで信用していいのかが分からないヒトって、見たことない。

「なにやってんの?」

 希先輩が割り込んできた。

あの日のことは荒木さんのなかで、どういう処理のされ方をしたのだろう。

少なくとも俺との間では、全く話題には上がらなかった。

「ホントにもう。すっかり私より仲良しなんだから」

 希先輩もなにも言わない。

そう言って彼女は笑った。

あの白銀の龍を思い出す。

もう二度と話すことはないって言ってたのに、あの瞬間の荒木さんは、絶対に封印解かれてたよね。

それをどうして、俺に預けようと思ったんだろう。