「おお〜懐かしい音楽が流れてるじゃないか」
立夏と清涼は、駄菓子屋内に流れている音楽に耳を澄ましていた。きっと、あの頃の情景が頭に浮かんでいるに違いない。
「立夏。お前、ギター役やってたっけ?」
「そうよ。私、未だに練習してるし」
立夏はエアギターをやって見せる。
「あははは。相当上手くなったよな。小さいころめちゃくちゃライブごっこにハマってみんなで楽器買ったのが懐かしいわ。俺なんてドラムセット買ったんだぜ? またみんなで演奏してみたいよな」
清涼は流れてる音楽を聴きながら、遠い目をしていた。
かつて、幼馴染のメンツで演奏した時のことを思い出している。
そんな彼らの様子を見ていた花火が口を開く。
「太陽くんもそのライブごっこに参加していたんですか?」
「ん? ああ、そうだよ。今はちょっと避けられちゃってるみたいなんだけど、昔は仲よかったんだぜ」
清涼は駄菓子屋の外に座っている太陽の方を見ながら呟く。
「太陽はベース担当だったんだ。相当練習してたみたいだからね。小学校頃はめちゃくちゃ上手だったんだよ。私たちの中では一番だったよ!」
太陽について語る立夏は少しだけ嬉しそうにしていた。
そんな彼らの話を聞いていた花火は、ある一つの疑問を持った。
それは、ボーカルは誰がやっていたんだろう。という些細な問題だ。
「ボーカルの方は誰だったんですか?」
花火がそう口にした途端、一瞬だけ凍てついた空気が流れる。だが、清涼がすぐさま明るく笑ってを見せた。
顎に手を当て、少し考えてから彼は説明した。
「そいつは今、遠くに行っちまったんだよ。だから今はボーカル不在なわけだわ」
「あ、思いついた!」
清涼がそう言った時、立花が唐突に手を叩いた。そして、花火の肩を掴む。
「花火ちゃん! 歌を歌ってよ!」
「え!? 私がですか?」
「うん! 私がギターで、太陽がベース、そんで清涼がドラムで花火ちゃんがボーカルだ! それでもう一度バンドを組むの! どう? 楽しそうじゃない?」
立夏は花火の肩を掴んだまま瞳をキラキラと輝かせている。対する花火は、少しだけ不安そうな顔をしていた。
「私なんかで、いいんですか? 歌なんて歌ったことないですよ?」
そこまで言って、花火は思い出した。先ほどこの駄菓子屋に来た時、太陽が流れている音楽を聴いて懐かしそうな表情をしていたことを。
「そうだよ立夏。花火ちゃんを無理やり誘うことはない。迷惑がかかるだろ」
「え〜。やっぱそうか〜」
清涼に止められて、立夏はがくりと肩を落とす。その時だ。
「大丈夫ですよ。私、やってみたいです。上手に歌えるかどうかは分かりませんが、やるだけでも、やらせてください」
力強く、花火が宣言した。
やれることは全部やろうと決めてこの世界に来た。
全ては変わるために、後悔をしないために、今ではもう、顔も思い出すことのできない人に言われたから。
絶対に楽しむと、心に決めている。
「ほんとに!?」
「大丈夫なのか? 無理しなくていいんだよ」
心配する立夏と清涼を前に、花火はこくんと頷いた。
「大丈夫です。ですけど、私が超音痴だったら皆さんに迷惑をかけてしまうので、一応チェックしてください」
後頭部に手を当てて、苦笑いしながら花火は言う。
「オッケーよ。じゃあ私の後に続いて歌ってみて」
「いくよ」と前置きしてから、立夏が歌い始める。
立夏の歌声は、とても聞き取りやすく、聞いていて心地の良い部類に入るだろう。彼女は歌い終わると、後に続いてと言わんばかりに花火に向かってウインクした。
それを見て、花火はこくりと頷く。
立花の真似をするように、花火は歌った。
鈴の音のように美しい歌声が、駄菓子屋の中に響き渡った。その歌声を聞いていた立夏と清涼は一瞬だけ息を飲んでしまった。
気がついた時には二人とも拍手をしていた。
「すっげえ。めちゃくちゃうまいじゃんか」
「うん。びっくりしちゃったわ。プロかと思った」
二人に賞賛されて、花火は照れ臭そうに頬をかく。こんな風に誰に褒められたことは、あまりない経験だった。それこそ、記憶の片隅にあるあの人に褒められたくらいかもしれない。
「いえいえ、そんなに上手じゃないですよ。でも嬉しいです」
「じゃ、あとは太陽を誘ったらいいわけだな!」
「一緒にやってくれたらいいんだけどね」
太陽というワードに立花が悲しそうに肩を落とす。きっと、彼らは太陽と昔のような関係に戻りたいのだろうなと、花火は思った。
そんな彼らを見ていて、どうして太陽にはこんなにも優しい友達がいるのに、仲良くしようとせずに、あまつさえ家に来たのに無視しようと思ったのか、花火には分からなかった。
今まで誰にも必要とされず、孤独に苦しんでいた彼女だからこそ、差し伸べてくれる手を振り払おうとする太陽の考えが、理解できなかった。
こんな質問は良くないと分かっている。急すぎて驚かれるのも十分承知だ。それでも、花火は聞かずにはいられなかった。
「あの……太陽くんは、どうしてあまり人と関わろうとしないんでしょうか?」
清涼と立夏の視線が、花火に集まる。先ほどのように一瞬の間があってから、清涼が口を開いた。
「それは太陽に直接聞いた方がいいかな。予想はできてるけど、確信は持ててないから。ただ、俺達が太陽をしつこく誘う理由は答えられるかな。多分、太陽の原因と同じだと思うから」
一度大きく息を吸ってから、清涼は続ける。
「さっきも言ったけど、昔、大切な人が遠くに行っちまったんだ。それで、俺達は後悔した。もっと大切にしとけば良かったってな。だから決めたんだ。もう後悔はしたくない。今いる友達は全力で愛するってさ。失うのはもう嫌だ。だから絶対に手放したくない。いなくなって欲しくない。だから、俺達は太陽を誘うんだ」
それを聞いて、ああ、太陽くんはとてもいい友達を持ったんだなと、花火は思った。それと同時に、とても羨ましいとも思う。
清涼は頬をかきながら、居心地悪そうにしていた。
「なんだか辛気くさい雰囲気になっちまったな。ほら、駄菓子選ぼうぜ!」
清涼は花火の背中をぽんと叩いてから店のさらに奥へと入って行った。
立夏と清涼は、駄菓子屋内に流れている音楽に耳を澄ましていた。きっと、あの頃の情景が頭に浮かんでいるに違いない。
「立夏。お前、ギター役やってたっけ?」
「そうよ。私、未だに練習してるし」
立夏はエアギターをやって見せる。
「あははは。相当上手くなったよな。小さいころめちゃくちゃライブごっこにハマってみんなで楽器買ったのが懐かしいわ。俺なんてドラムセット買ったんだぜ? またみんなで演奏してみたいよな」
清涼は流れてる音楽を聴きながら、遠い目をしていた。
かつて、幼馴染のメンツで演奏した時のことを思い出している。
そんな彼らの様子を見ていた花火が口を開く。
「太陽くんもそのライブごっこに参加していたんですか?」
「ん? ああ、そうだよ。今はちょっと避けられちゃってるみたいなんだけど、昔は仲よかったんだぜ」
清涼は駄菓子屋の外に座っている太陽の方を見ながら呟く。
「太陽はベース担当だったんだ。相当練習してたみたいだからね。小学校頃はめちゃくちゃ上手だったんだよ。私たちの中では一番だったよ!」
太陽について語る立夏は少しだけ嬉しそうにしていた。
そんな彼らの話を聞いていた花火は、ある一つの疑問を持った。
それは、ボーカルは誰がやっていたんだろう。という些細な問題だ。
「ボーカルの方は誰だったんですか?」
花火がそう口にした途端、一瞬だけ凍てついた空気が流れる。だが、清涼がすぐさま明るく笑ってを見せた。
顎に手を当て、少し考えてから彼は説明した。
「そいつは今、遠くに行っちまったんだよ。だから今はボーカル不在なわけだわ」
「あ、思いついた!」
清涼がそう言った時、立花が唐突に手を叩いた。そして、花火の肩を掴む。
「花火ちゃん! 歌を歌ってよ!」
「え!? 私がですか?」
「うん! 私がギターで、太陽がベース、そんで清涼がドラムで花火ちゃんがボーカルだ! それでもう一度バンドを組むの! どう? 楽しそうじゃない?」
立夏は花火の肩を掴んだまま瞳をキラキラと輝かせている。対する花火は、少しだけ不安そうな顔をしていた。
「私なんかで、いいんですか? 歌なんて歌ったことないですよ?」
そこまで言って、花火は思い出した。先ほどこの駄菓子屋に来た時、太陽が流れている音楽を聴いて懐かしそうな表情をしていたことを。
「そうだよ立夏。花火ちゃんを無理やり誘うことはない。迷惑がかかるだろ」
「え〜。やっぱそうか〜」
清涼に止められて、立夏はがくりと肩を落とす。その時だ。
「大丈夫ですよ。私、やってみたいです。上手に歌えるかどうかは分かりませんが、やるだけでも、やらせてください」
力強く、花火が宣言した。
やれることは全部やろうと決めてこの世界に来た。
全ては変わるために、後悔をしないために、今ではもう、顔も思い出すことのできない人に言われたから。
絶対に楽しむと、心に決めている。
「ほんとに!?」
「大丈夫なのか? 無理しなくていいんだよ」
心配する立夏と清涼を前に、花火はこくんと頷いた。
「大丈夫です。ですけど、私が超音痴だったら皆さんに迷惑をかけてしまうので、一応チェックしてください」
後頭部に手を当てて、苦笑いしながら花火は言う。
「オッケーよ。じゃあ私の後に続いて歌ってみて」
「いくよ」と前置きしてから、立夏が歌い始める。
立夏の歌声は、とても聞き取りやすく、聞いていて心地の良い部類に入るだろう。彼女は歌い終わると、後に続いてと言わんばかりに花火に向かってウインクした。
それを見て、花火はこくりと頷く。
立花の真似をするように、花火は歌った。
鈴の音のように美しい歌声が、駄菓子屋の中に響き渡った。その歌声を聞いていた立夏と清涼は一瞬だけ息を飲んでしまった。
気がついた時には二人とも拍手をしていた。
「すっげえ。めちゃくちゃうまいじゃんか」
「うん。びっくりしちゃったわ。プロかと思った」
二人に賞賛されて、花火は照れ臭そうに頬をかく。こんな風に誰に褒められたことは、あまりない経験だった。それこそ、記憶の片隅にあるあの人に褒められたくらいかもしれない。
「いえいえ、そんなに上手じゃないですよ。でも嬉しいです」
「じゃ、あとは太陽を誘ったらいいわけだな!」
「一緒にやってくれたらいいんだけどね」
太陽というワードに立花が悲しそうに肩を落とす。きっと、彼らは太陽と昔のような関係に戻りたいのだろうなと、花火は思った。
そんな彼らを見ていて、どうして太陽にはこんなにも優しい友達がいるのに、仲良くしようとせずに、あまつさえ家に来たのに無視しようと思ったのか、花火には分からなかった。
今まで誰にも必要とされず、孤独に苦しんでいた彼女だからこそ、差し伸べてくれる手を振り払おうとする太陽の考えが、理解できなかった。
こんな質問は良くないと分かっている。急すぎて驚かれるのも十分承知だ。それでも、花火は聞かずにはいられなかった。
「あの……太陽くんは、どうしてあまり人と関わろうとしないんでしょうか?」
清涼と立夏の視線が、花火に集まる。先ほどのように一瞬の間があってから、清涼が口を開いた。
「それは太陽に直接聞いた方がいいかな。予想はできてるけど、確信は持ててないから。ただ、俺達が太陽をしつこく誘う理由は答えられるかな。多分、太陽の原因と同じだと思うから」
一度大きく息を吸ってから、清涼は続ける。
「さっきも言ったけど、昔、大切な人が遠くに行っちまったんだ。それで、俺達は後悔した。もっと大切にしとけば良かったってな。だから決めたんだ。もう後悔はしたくない。今いる友達は全力で愛するってさ。失うのはもう嫌だ。だから絶対に手放したくない。いなくなって欲しくない。だから、俺達は太陽を誘うんだ」
それを聞いて、ああ、太陽くんはとてもいい友達を持ったんだなと、花火は思った。それと同時に、とても羨ましいとも思う。
清涼は頬をかきながら、居心地悪そうにしていた。
「なんだか辛気くさい雰囲気になっちまったな。ほら、駄菓子選ぼうぜ!」
清涼は花火の背中をぽんと叩いてから店のさらに奥へと入って行った。