私は手帳を睨みつける。『前略、緒方へ。』の続きがどうしても浮かばない。ここの職員のチェックをくぐり抜けて、彼に“真実”を伝えないといけない。私は肩が震えるほど力をこめて、ボールペンを握る。必死に方法を考える。そうしないと、この地獄に彼が来てしまう。緒方まで少年愛好家の変態の餌食にされてたまるものか。

 あいつは私のモノなんだ――。


 前略、緒方へ。


 こんにちは、緒方。

 こんなにも早く、あんたから手紙が来るなんてびっくりだよ。

 はっきり聞くけど、あんた私に恋した?

 じつを言うとさ、私は、もうあんたの顔なんて見たくもないんだ。

 ごめん、私がちょっかいかけたせいで、あんたに勘違いさせたみたいだね。

 くだらない友達ごっこしたかっただけなんだよ、私。

 ぜっかいの孤島に連れられて、私は今、とてもイライラしてる。

 つきまとわれたくないな。あんたストーカーかよ(笑)

 たいした容姿でもないあんたに、私が恋するとかありえないから。

 いいかげん分かれよ、童貞。

 こーいう手紙も迷惑んだよね。キモいし。

 なんで、本気にしちゃうか理解不能だよ。

 いいかげん現実を見なよ、バカの妹殺し。

 できれば、ここに来ないで。そっちで死んで。ばいばい。

                                     加藤杏


「……さすがに、これひどくない?」

 文章を書き終えてた私に対する皐の第一声がそれだった。「杏、嫌われちゃうよ?」

「嫌われてもいい。それで緒方が助かるなら。封筒と切手はどこで手に入れるのか、私、柘植に聞いてくる」

 私は便せん代わりにした手帳のページを破ると、小走りで部屋を出た。

 焦っていた。早く手紙を届けないと、今にもあいつが来ちゃいそうで。

 緒方、ダメだよ。あんたは本土にいてよ。