「大変な時に、ずけずけ話しかけちゃったから。あたし、いつもそうなんだ。全然空気読めないの。自分勝手なんだよね。今も本当は知らない土地に一人で行くの不安でしょうがなくって、それであなたを見つけて、勝手に仲間見つけたみたいに思っちゃって。あっ、また話しすぎてるね、ごめん、もう黙るよ、ごめん」

 彼女は両手の握りこぶしを両膝にのせて、私にぺこりと頭を深く下げた。素直な子、と私は思った。彼女は一分くらい私に頭を下げたままの体勢を保持して、その後、ゆっくりと顔を上げて、私でなくテレビの方へと視線を移した。私も黙ってしばらく彼女と同じように、昼の情報番組を眺めていた。とある芸能人の不倫騒動が流れていた。たくさんの記者が一人の女優を取り囲み、マイクを付き刺すような勢いで彼女に向けている。何であんなに必死になるんだろう。別にいいじゃん、他人の色恋沙汰なんて、どうでも。それよりも、自分のことじゃん。そうか、じゃあ、

「今から行く学校のこと、教えてくれる?」

 私は自分から、隣の子に話しかけた。その子は驚いたように両肩をぴくん、と震わせて、超ゆっくりと、恐る恐るという風に私の方に顔を向ける。

「……話していいの?」
「いいけど」

 私がそう答えると、彼女は一瞬にして満面の笑顔を咲かせた。もしこれが和さんがよく観ていた萌えアニメなら、ぱあああっ! という効果音が絶対入ってる。

「良かった~! あたし、絶対嫌われてると思ってた~! 転校早々またやっちゃったかとすっごい落ち込んでた~! ようし! あたしの知ってることなら、何でも教えてあげるよ!
 汚名挽回! 藤原ああっ、ファィッ! おー!」

 自らを藤原と名乗った女の子は、両手の握りこぶしを激しく上下に振りながら、いきなりテンションを思いっきり上げてきた。顔もずいっと近づけてくる。ていうか近すぎる。ミントっぽい匂いの息がかかる。女の子だから、まあいいけど。

「藤原さんって言うんだ」
「そう! でも、出来れば名前の皐で呼んで欲しいかな」
「私は加藤杏。皐さん汚名は返上した方がいいよ」
「うわあっ! あたしがおバカなの、早速バレた!」

 皐さんは、両手で頭を抱えて、ハリウッドのコメディー映画のようなオーバーリアクションをしつつ「マイガッ!」と叫んだ。和さんに近いな、このノリ。嫌いじゃない。疲れるけど。