「それ、ナミトクのパンフ入った封筒じゃん。今日、あたしと転入する子がいるって聞いてたから、あなたかなって」

 彼女は私の手にした白い封筒を指さす。『私立南中等特別支援養護学園』という文字を読んでナミトクというのが、これから私が転入する学校の略称なのだとようやく気づいた。

「あんたも、今日からここに通うの?」
「うん。これナミトクの制服だよ。田舎の学校にしてはデザイン良くない?」

 ブラウスの襟を右手の指先でつまみつつ、彼女は表情を微笑から笑顔へとシフトチェンジさせた。

「ふうん」私はテキトーに相づちを打った。正直制服なんてどうでもいい。
「服に興味ないんだ。あなた可愛いのに変わってるね」

 隣の子は私が心の壁を作っているにもかかわらず、どんどん言葉を発してくる。どうやら会話をやめるつもりはないらしい。空気を読めないのか、敢えて攻めてきてるのか判断に苦しむ。

「制服なんか気にしている余裕はなかったから」仕方なく私は彼女から目を逸らしたまま返事を返した。
「パンフ見てないの?」
「さっき渡されたばっかだし。だいたい転校も昨日急に決まったことだし」
「え、何それ、さすがに急すぎじゃない?」
「急に唯一の保護者が死んじゃったからね。せめて予告は欲しかったよ」

 私は頭の片隅に浮かんだ和さんに悪態をついた。和さんは笑って「だって、私、自分大好きだし! だけど世間の目は痛いし! 杏ちゃんには悪いけど、お先に逝かせてもらうね♪」と言っていた。和さんは私と同じ、好意を持ったモノを破壊する衝動を抱えていた。だから、私は和さんには心を許していたのだ。でも、一点だけ私と違うところがあった。私は自分が大嫌いで、和さんは自分が大好きだったということだ。警察の人が死因を、和さんがベンツの車内で練炭を炊いて自殺したらしいと説明した時、私はすべてが附に落ちた。ついに我慢できなくなったんだな、と。

「もしかして、喪服っぽいの着てるの、そのせい?」

 隣の子が目を見開いて、驚いていた。私は頷いて「一時間前に、告別式済ましてきた」と答えた。

「……ごめんね」彼女は急に肩を落として、見るからに落ち込んだようなそぶりを見せた。声も弱々しくなっている。
「え、何が?」