僕はコンソールの前から立ち上がると、藤原の顔を見ないようにして、彼女のそばから離れた。視界の端に彼女の事務服のスカートとピンクのカーディガンの裾が映る。今さらながら彼女から数種類の花の花弁を集めてごった煮して作ったような甘い匂いがしていることに気がついた。香水だろうか。僕にはそれがいい匂いなのか、嫌な匂いなのかすら判別できなかった。

「緒方さん、ホントにツレないですね。実はホモなんですか?」

 コンソールの前に一人残った藤原が、拗ねたような口調で、でもどこかおかしそうにそんなことを言う。僕は彼女を振り返らずに、「施錠よろしく」とだけ言ってマシンルームを出た。