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「私は緒方の本当を教えてって言ったんだよ。今の話の流れだと、緒方は私と同じで、強く好意を寄せた相手に対して破壊衝動を持っているのは分かる。だから、妹さんを殺しかけたと。そして、それが原因となって妹さんは交通事故に遭って死んだ。そのことを緒方は激しく後悔している――そう聞こえる」
「だって、そうだから。お前は何を言って、」
「ヒトデナシの上にウソつきなのは、どうなのかな? 緒方」

 僕の言葉を途中で遮り、加藤が薄く笑った。

「何が言いたい?」
「言っていいの? じゃあ、言ってあげるよ」加藤は再び、鳴き続けるアブラゼミを見上げて、額の汗を右手の甲で拭いながら淡々と話し始めた。
「緒方は人間の出来損ないのヒトデナシだから、大好きな妹さんを首を絞めて殺しかけた。だけど運良く途中で正気に戻って殺さなかった。でも、それが起因となって妹さんと距離を置くようになって、そのせいで妹さんはまだ幼いのに一人で登下校して交通事故で亡くなった。その時、ヒトデナシの緒方くんは後悔した。どうせ死ぬなら、あの時、僕が殺したかったって。妹さんが死んだことに自責の念を抱いているんじゃない。殺しの機会を失ったことに後悔してるんでしょ?」


 あはははははははははははははははははははははははっ!


 僕は耳を疑った。それはとても人の声とは思えない耳障りな音だった。常緑樹で泣き叫ぶアブラゼミの声さえ、かき消す獰猛な野生動物の咆哮。でも、それは紛れもなく僕の発した笑い声だった。加藤も目を見開き、一瞬たじろぐほどの醜い僕の正体だ。僕はその場から飛び出すと、両腕を突き出し、加藤の細い首を掴んで押した。加藤は背中を激しくアブラゼミのとまっていた常緑樹にぶつけて、苦悶の表情を浮かべた。僕は興奮していた。加藤のかかとに教科書がぶつかった時よりも、部屋で加藤の卑猥な姿を想像して自慰をしている時よりも、ずっとずっと。加藤、お前がいけないんだ。僕はずっと殻をかぶって、静かに死んでいたのに。誰も傷つけないように死んだフリをしていたのに。お前が、同じ匂いを持ったお前が、僕の前に現れたから悪いんだ。

「緒方、告白、ありが、とう」