「あの時は、私も納得しちゃったけど、それって、要は私にあいつらとは違うって示したいってことじゃん。つまり私を意識してるってことだよ」

 加藤はやかましく夏の歌を歌い続けるアブラゼミを見上げたまま、まるで僕の心の内が透けて見えるかのように真実を話した。僕は無言でいるしかない。それが肯定を意味する沈黙だとしても。ダメだ。心の殻を取り払われた僕は、もう無力だ。

「あと、わざと袋やぶって、私の足に教科書ぶつけたよね。私を攻撃したかったんでしょ? 好意を持った女の子を傷つけたかったんでしょ? その日の夜は私の手を握った手で、私をオカズにオナニーしたとか」
「わざとじゃない」

 それは本当だ。でも、彼女のかかとに教科書が当たった時は、僕は確かに性的に興奮した。

「オナニーは否定しないんだ。やっぱ、緒方はウソはつけない人だね」

 加藤がこっちを見て、にやりと笑う。

 しまった、そっちか。

 僕は今、完全に加藤の手のひらの上で転がされている。

「いいよ、恥ずかしがらなくても。十四歳ならフツーするでしょ」
「お前、女子がそんな言葉使って平気なのかよ」
「友達なら平気。だって、もっとヤバいことバラしたし」加藤はまだアブラゼミを眺めたまま、言葉を続ける。「それより、緒方の本当を教えてよ」

 彼女は眼球だけを動かして、僕を見た。

 表情は変わらない。だが、僕はその視線に強いプレッシャーを感じた。こっちの手札は全部見せた、次はそっちだという風に。僕は迷った。だが、今の僕には殻がないのだ。今、加藤が見上げているセミのように、さなぎの頃に持っていた殻はひび割れて失くしてしまったのだ。抗う術はない。

「小五の頃、妹を殺しかけた」

 僕は親にも言ったことが無い真実を口にした。

「どんな風に?」