最初が緒方の声で、次が私だ。私は自分が左手に持ったシャープペンシルの先端で、彼の背中を突き刺していた。わざとじゃない。というか、意識してやったんじゃない。でも、確かに私は、白い制服のシャツの向こうにある緒方の肉体の手応えを、ペンを伝って感じていた。白いシャツに赤い点が出来て少しだけ広がる。血だ。緒方の血。私は生唾を飲み込んでしまう。
「何だよ、痛いだろ」
さすがの緒方も振り返って、私をにらんだ。三日ぶりに見た人形じゃない緒方の表情に私はうきうきしてしまう。ダメ、笑っちゃいそう。
「ごめん、ちょっと用事あって」
「お前は用事があったら、シャープで人を刺すのか」
「血が出てる。保健室行こう。そこで話すよ」
私は席から立ち上がると、周囲の視線もはばからず、緒方の右腕を掴んだ引っ張った。
「別に保健室行くほどじゃないんだけど」
「五月蠅い。いいから来て」
右手だけじゃなく、左手も使って私は緒方の腕を引っ張る。夏の制服は半袖だ。緒方の素肌に私の指先が直接食い込む。わざと痛いくらい強く掴んでやる。彼が微かに表情を歪めると心臓が高鳴った。
「仕方ないな」と緒方は言って立ち上がる。
うつむきかけてたから見えずらかったけど、確かにちょっとだけ嬉しそうな顔をしていたことを私は見逃さなかった。よし、勝った。
「行くよ」
私は緒方の手を引いて、急ぎ足で教室の出口へ向かう。その途中、「加藤が緒方と手繋いでる」「朝っぱらから男と保健室かよ」「逆ナンか」「やっぱあの子好きものじゃん」「ハブられ同盟」「エッチだけなら俺も混ぜろよ」「緒方君、逃げてー」教室じゅうからたくさんのノイズが聞こえてきた。でも、所詮ノイズだ、気にしない。緒方も特に気にしたそぶりはなさそう。私はむしろ勝ち誇った顔で、周囲の子供達を見渡し、心の中で思った。お前達はこのくそ暑い教室で今からつまらなくて何の役にも立たない授業を受けてろ。私は緒方とここよりは涼しいはずの保健室で、遊んでいるから。私は教室の扉を開けて廊下に出る瞬間、ぎゅっと緒方の手を握った。一瞬、間を置いて緒方も私の手を握り返してきた。私は瞬時に彼の戸惑いと、私への好意のカケラのような感情を嗅ぎ取り、心の中でほくそ笑んだ。また勝った。
――友達はいいけど、それ以上はダメだよ?
数日前の和さんの声が頭の中で再生される。
「何だよ、痛いだろ」
さすがの緒方も振り返って、私をにらんだ。三日ぶりに見た人形じゃない緒方の表情に私はうきうきしてしまう。ダメ、笑っちゃいそう。
「ごめん、ちょっと用事あって」
「お前は用事があったら、シャープで人を刺すのか」
「血が出てる。保健室行こう。そこで話すよ」
私は席から立ち上がると、周囲の視線もはばからず、緒方の右腕を掴んだ引っ張った。
「別に保健室行くほどじゃないんだけど」
「五月蠅い。いいから来て」
右手だけじゃなく、左手も使って私は緒方の腕を引っ張る。夏の制服は半袖だ。緒方の素肌に私の指先が直接食い込む。わざと痛いくらい強く掴んでやる。彼が微かに表情を歪めると心臓が高鳴った。
「仕方ないな」と緒方は言って立ち上がる。
うつむきかけてたから見えずらかったけど、確かにちょっとだけ嬉しそうな顔をしていたことを私は見逃さなかった。よし、勝った。
「行くよ」
私は緒方の手を引いて、急ぎ足で教室の出口へ向かう。その途中、「加藤が緒方と手繋いでる」「朝っぱらから男と保健室かよ」「逆ナンか」「やっぱあの子好きものじゃん」「ハブられ同盟」「エッチだけなら俺も混ぜろよ」「緒方君、逃げてー」教室じゅうからたくさんのノイズが聞こえてきた。でも、所詮ノイズだ、気にしない。緒方も特に気にしたそぶりはなさそう。私はむしろ勝ち誇った顔で、周囲の子供達を見渡し、心の中で思った。お前達はこのくそ暑い教室で今からつまらなくて何の役にも立たない授業を受けてろ。私は緒方とここよりは涼しいはずの保健室で、遊んでいるから。私は教室の扉を開けて廊下に出る瞬間、ぎゅっと緒方の手を握った。一瞬、間を置いて緒方も私の手を握り返してきた。私は瞬時に彼の戸惑いと、私への好意のカケラのような感情を嗅ぎ取り、心の中でほくそ笑んだ。また勝った。
――友達はいいけど、それ以上はダメだよ?
数日前の和さんの声が頭の中で再生される。