「柘植との約束を果たしただけ。あの子達はね、ずっと死にたかったんだよ。それしか皐と大人達に壊された子達は、あの地獄から逃れる術はなかった」加藤は藤原の胸ぐらを放すと、今度は僕に近寄ってきて答えた。
「親に見捨てられ、薬漬けで身体と心を壊した未成年が、たとえあの島を出たってどんな未来が待ってるの? あの子達は被害者だけど薬物中毒者には変わりない。保護者も後見人もいない薬中に緒方は明るい未来があるとでも? ないよ絶対にない。男ならブラック企業以下の組織で馬車馬のようにこきつかわれるか暴力団の鉄砲玉くらい。女なら私みたいに風俗に墜ちるしかないよ。一回転げ落ちたら、ワンチャンすらもらえない。課金しないとクリアできないソシャゲ―と同じ。この国は弱者には無理ゲーすぎるんだよ。生きるのツラすぎ。緒方はそう思わない?」

 加藤は僕の目の前に立つと、顔を上げて微笑した。

「……だから、十七人も殺したのか?」僕は震える手を上げて、加藤の両肩を掴んだ。
「炭酸ガスで眠らせて、一気に首をかっ切った。誰も苦しまなかったはずだよ」
「僕以外の人を、君は十七人も殺したのか?」僕は指が加藤の肩に食い込むほどの力を入れる。
「うん、救ってあげたかったから」


 あんたを殺していいのは、私だけ。

 私が殺すのは、あんただけだよ。


「ウソつき!」

 僕は加藤の肩を掴んでいた両手を、彼女の細い首に移動させる。締めてはいない。両手が、がたがたと震えて自分でも上手く制御できないのだ。

 ひどいよ、加藤。

 昨夜突然僕の前に現れて、僕の心を覆っていた大切な殻を木っ端みじんに粉砕しておいて。その上、君は僕との一番大切な約束まで破ったのか。

 僕だけだと君はメールで伝えてくれたじゃないか。

 あのメールは未だに保護をかけて毎日のように読み返していたんだ。

 僕の唯一の支えだったんだ。

 無理ゲーのようなくそったれな社会を何とかやり過ごす回復薬だったんだ。

 それなのに。

 加藤は微かな笑みを浮かべたまま、僕の両手にそっと自分の両手を重ねて言った。

「十年前の夏、あの日と同じシチュだね」
「僕以外は殺さないって言ったのに、加藤のウソつき」
「緒方、女の子はね、皆ウソつきなんだよ」
「お前は、僕だけが――じゃないのかよ?!」