「分かったみたいだね。私はあんたを安心させるために故意にわざとらしい暗号を混ぜたダミーの手紙を書いて封筒に入れた。そして、切手の裏に本命のメッセージを書いて貼ったのよ。切手の上三分の二くらいだけ濡らして。受け取った緒方が剥がして、裏を読む可能性に賭けた。緒方は計算通り、“真実”を知ってナミトクに転入はしなかった。あとは私が脱走するだけだった。だけど――」

 加藤は一旦言葉切ると、再び強く藤原の胸ぐらをつかむ両手に力を込めた。

「その後で、私はミスを犯した。だから、脱走に失敗して、あんた達に嬲り者にされてしまったんだよ。鍵がニセモノとは思わなかった。柘植が最後にヘタレたんだよ」
「柘植が、ヘタレた?」藤原が切れた唇から、血を垂らしながら尋ねた。
「そう。私は、柘植からあの施設のことを訊いた時から、あの女を懐柔する方法を模索していた。あの子の言ったことは半分は真実だけど、あんたのことを私と同じ転入生として扱っているフリをしている以上、あんた側の人間なのは明らかだった。だから、切手をもらいに行った時、あんたとの本当の関係を教えることと私の脱出計画に協力することをもちかけたんだよ。その代償に私が本土に戻ったらすぐにあの施設で行われていることを世間に暴露して、生徒全員を救うって提案した。あの子は相当迷ってたけど、最後は私に協力することを選んだ。あんたの親父や職員に犯されるのはもう嫌だってね。当然だよね」
「あいつ、あたしを裏切ってたのか……どうせシャブ漬けで、外でなんか生きられない身体のくせに、あのクソ女っ!」

 藤原は僕が今まで見たこともないような、醜い表情をして床に唾を吐いた。血の混じった唾液が、フローリングに付着する。

「皐、もう死んだ人を悪く言うのはよしなよ。それに最後にはヘタレてあんたの側に寝返ったんだから、いいじゃん。そのせいで私は大人達に野外レイプされちゃったし。あんたの当初の目的は果たせたでしょ?」

 藤原とは逆に加藤は少しだけ表情を弛緩させ、首を横に振った。

「だけど、そのせいで次の日、杏のとんでもない復讐が起きたじゃない!」
「あれは復讐じゃないよ」

 加藤はまた小さく首を振った。

「どういうことだ」藤原でなく、僕が尋ねた。

 それは僕にとって、大切なことだったから。