「一日、一枚ずつ食べてた。トイレの個室で食事を吐いてからそこでね。分かる? 私は四日間トイレでアジの干物をかじって飢えをしのいでいたんだよ。惨めで泣きたくなったよ。でも泣かなかった。あんた達になんか泣かされてたまるもんかって思って、鼻をつまみながら固いアジを食べて脱走のチャンスを狙っていた」
加藤は両手で、藤原のセーターの胸ぐらを掴んで突き飛ばし、藤原の後頭部を部屋の壁に打ち付けた。がこん、がこんとまるで工事現場で杭を打ち付けるような鈍い音が部屋中に響く。僕は加藤の背後から彼女の両肩を掴んだ。
「やめろ、殺すつもりか?」
「緒方、あんたお人好しなの? この女はあんたも壊すはずだったんだよ? 私がメッセージを送らなければ、きっとあんたはナミトクに転入してたでしょ?」
加藤が僕を振り返る。
ココハ ジゴク ゼッタイ コナイデ
十年前、加藤が僕に送ったメッセージが、脳裏を過ぎった。
彼女が閉ざされた世界から、僕を助けるために教えてくれた“真実”だ。
「そうだ、そうだったよ。どうして緒方さんは、ナミトクに来なかったんですか?! 絶対に来ると思っていたのに! すぐに来てって、あたし書いたのに! 好きな子を見捨てたんですか? 薄情者っ!」
加藤にさんざん痛めつけられて、額に赤黒い血で前髪を貼り付けた藤原が、僕に向かって叫んだ。
「あはは、あんた、馬鹿だよ。緒方はあんたの出した偽の手紙なんて真に受けてない。私の送ったメッセージをちゃんと受け取った。だからナミトクには来なかったんだよ」
加藤が再び藤原の方を向いて、声を出して笑った。
「それはないよ! 杏の書いた手紙はあたしが捨てた! あの陳腐な横読み暗号は、緒方さんには届いてないっ!」
「あれはダミーだよ。あんたを疑っていた私が、あんたを引っかけるためにわざとやったのよ。あの後、私がどうしたか覚えてる?」
「柘植に、切手と封筒をもらいに……あ」
藤原はそこまで話すと、急に黙り込んだ。
加藤は両手で、藤原のセーターの胸ぐらを掴んで突き飛ばし、藤原の後頭部を部屋の壁に打ち付けた。がこん、がこんとまるで工事現場で杭を打ち付けるような鈍い音が部屋中に響く。僕は加藤の背後から彼女の両肩を掴んだ。
「やめろ、殺すつもりか?」
「緒方、あんたお人好しなの? この女はあんたも壊すはずだったんだよ? 私がメッセージを送らなければ、きっとあんたはナミトクに転入してたでしょ?」
加藤が僕を振り返る。
ココハ ジゴク ゼッタイ コナイデ
十年前、加藤が僕に送ったメッセージが、脳裏を過ぎった。
彼女が閉ざされた世界から、僕を助けるために教えてくれた“真実”だ。
「そうだ、そうだったよ。どうして緒方さんは、ナミトクに来なかったんですか?! 絶対に来ると思っていたのに! すぐに来てって、あたし書いたのに! 好きな子を見捨てたんですか? 薄情者っ!」
加藤にさんざん痛めつけられて、額に赤黒い血で前髪を貼り付けた藤原が、僕に向かって叫んだ。
「あはは、あんた、馬鹿だよ。緒方はあんたの出した偽の手紙なんて真に受けてない。私の送ったメッセージをちゃんと受け取った。だからナミトクには来なかったんだよ」
加藤が再び藤原の方を向いて、声を出して笑った。
「それはないよ! 杏の書いた手紙はあたしが捨てた! あの陳腐な横読み暗号は、緒方さんには届いてないっ!」
「あれはダミーだよ。あんたを疑っていた私が、あんたを引っかけるためにわざとやったのよ。あの後、私がどうしたか覚えてる?」
「柘植に、切手と封筒をもらいに……あ」
藤原はそこまで話すと、急に黙り込んだ。