「そうだよ。私はフェリー乗り場で会った時から、あんたを疑ってた」

 加藤は藤原の右手首をつかんだまま、さらに一歩踏み出して彼女に近づく。と、同時に自分の右手を拳にして、彼女の横っ腹に何度もたたき込んだ。「痛い! 痛いっ!」と藤原は身体をくの字に曲げて、声を上げるが加藤は藤原を部屋の壁際に押しやると、容赦なく彼女を攻撃し続けた。

「ほら、あんたは、こんなに非力な女じゃん」

 加藤は薄笑いを浮かべながら、床に両膝をつき崩れるようになった藤原の顔面を膝で蹴りながら言う。「そんなあんたが、荷物の詰まったキャリーバッグをあんなに軽々と運べるわけないんだよ。空っぽだったからあんな風に運べたんだ。私を騙すつもりなら、もっと完璧にやれ。食事に変な薬が混ざってるのだって、食べてすぐ分かったよ。だから私は全部吐いたんだ。あんた達に支配されないように。あんたは父親と共謀して、他の子達を薬漬けにして無気力にして、食い物にしてきたんだ。汚らしい大人達の黒幕はあんただよ。私以外の子はもう、取り返しがつかないくらい壊れていた。全員あんた達が壊したんだ!」

 藤原は鼻血を流して泣きながら、痛い、やめて、と繰り返した。

 だが、加藤はやめない。

 床に倒れた藤原の髪を乱暴に掴んで引っ張り顔を無理矢理あげさせる。藤原は「どうしてあんただけは壊れなかったのよ……」と涙声で訊いた。

「言ったでしょ、私は薬まみれの食事は一切食べなかったのよ」
「そんなことは不可能よ! 他に食料は持ち込んでなかったはずだし、実習の時だってあたしはずっと杏の隣で見張ってた! 何も食べずに四日間もまともに動けるわけないじゃん!」

 藤原が叫ぶと同時に、加藤は首を横に振って微笑した。

「ううん、私にだけはあった。本当に偶然だけど施設に入る直前、非常食を手に入れられた」
「うそ、あんた売店でだって水くらいしか買ってなかった。あたしはずっと見てた」
「お婆ちゃんがくれたアジの干物」
「あ……」藤原は加藤の言葉を聞いて、目を見開いた。