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 僕達はブルーベリージャムを塗ったトーストにインスタントコーヒーという簡素な朝食を、部屋の真ん中の小さなテーブルを挟んで摂っている最中だった。僕は新しいTシャツを着てスウェットを履いたが、加藤は全裸に頭から毛布を被ったまま座っていた。床にはまだ僕と加藤の下着や丸めたティッシュペーパーが散らばり、窓から差し込む冬の朝日がそれらを照らしている。部屋のインターフォンが何度か鳴っても僕達は無視していたが、ずっと鳴り止まない。

「うっさいな」

 業を煮やした加藤は布団を脱ぎ捨てると、僕が止めるのも聞かずに、僕の脱ぎ捨てたワイシャツを拾って肩に羽織っただけの格好で早朝の来訪者のところへと行ってしまった。

「せめてパンツくらい履けよ……」

 まだ半分くらいしか、頭が稼働していない僕はコーヒーを飲んだ後、つぶやく。亀頭が少し痛い。やりすぎたと思った。昨夜まで異性と性的な交渉などしたことはなかったのに、一夜にして僕は全部一度に経験してしまった。相手は初恋の女の子。でも、ほとんど成り行きで流されたような形だ。テーブルの上には僕が財布から取り出したよれよれの五千円札が置いてある。加藤がずっとしまわずに放置している金だ。僕はぼんやりとテーブルを見つめながらほとんど自動的に、トーストを手で掴んだ。でも、口には運ばなかった。

「緒方、お客さんだけど」

 僕は背中で、加藤の足音と声を聞いた。

「誰?」振り返らずに尋ねた。
「あんたの会社の人だって。上がりたいって言ってるけど、どうする?」
「こんな有様で、部屋に入れられるわけないよ」
「だってさ、やっぱ帰ってくんない? 皐」

 え?

 加藤の想定外に近くの相手に話しかけるような口ぶりに、驚いて後ろを見ると、顔色を失った藤原皐が立っていた。

「おはようございます、緒方さん」藤原は感情のない声で挨拶をする。
「どうして、もう上がってるんだ」僕は藤原でなく、加藤に尋ねた。
「私も止めたんだよ。でも、この子が私を見るなり、何でか知らないけど血相を変えちゃって強引に上がって来ちゃったんだよ。ブーツをちゃんと脱がすだけで精一杯だったし」

 加藤はだぼだぼの白いワイシャツの袖口から、細い手首を伸ばすと、ぽりぽりと右頬を掻いた。

「……教えてもらっていいですか?」藤原の声は相変わらず機械的で抑揚がない。