ナミトク制服にも、あたしの渾身の笑顔にも大して興味を示さなかった。それどころか心のガードが戻った気さえする。何なのこいつ。どうしてそんなにマイペースでいられるの? 母親に捨てられ、父親に邪魔にされて、唯一の味方の叔母さんも死んだんでしょ? もっと落ち込めよ。そんな感情すら欠落させたのかよ。確認しないと。ただ見た目が整ってるだけの人形を壊しても快感なんてほとんどないんだよ。それじゃあ、今、ナミトクにいる私が壊した子達(私が壊した子達、に点を打つ)と何ら変わりない。歪だけど孤高を貫いた純粋に狂った心をへし折るのが最高に快感なんだ。

「服に興味ないんだ。あなた可愛いのに変わってるね」

 あたしは加藤杏の精神状態を知るために、色々と話題を振った。彼女から叔母の死を語られた時、わざと落ち込んで見せたりして、いかにも優しい普通の女の子を演じてこの子の内心をのぞきこもうと必死になった。彼女の心の扉を引いたり押したりし続ける。こういう手法はお手の物だ。何といってもあたしのお父さんはそっち系の医師なのだ。患者との応対マニュアルは何度も読んでる。私にはあなたの心の変化が手に取るように分かるんだよ、加藤杏。

「今から行く学校のこと、教えてくれる?」

 やった! 

 あたしは、加藤杏から、この言葉を引き出した時、内心ほくそ笑んだ。この子はまだ人形じゃない。人形はこれからのことになんて興味は持たない。

「今から行くナミトクって、普通の学校じゃないんだよね」
「うん、ナミトクのトクは特別支援の特だからね」

 あたし限定の支援だけどね、と心の中で付け加えた。

「何を支援してくれるの? はっきり言って、私は性格というか、心に訳アリなんだけど」
「あたしもそうだよ。ここは心か身体に何らかの障害を持った子達を集めて、その子達が一般社会でも生きていけるように、治療したり、教育したりするのが目的なんだって。だから、マトモになったと判断されたら、また普通の学校に戻されるみたい」
「何を基準にマトモって判断するんだろう」

 そんなの善良なる世間の皆様のご都合に決まってるじゃん。

 もっとも、あなたはそんな心配しなくてもいいんだよ。

 あなたがナミトクを出るのは、棺桶に入った時だけだから。